「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。
作者・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご覧にならないでください。
ルドルフがゆっくりと目を開けると、そこはホーフブルク宮の見慣れた天井ではなく、見知らぬ病院の天井だった。
『あの、大丈夫ですか?』
そう言って自分を見つめる青年は、恋人と瓜二つの顔をしていた。
「アルフレート?」
ルドルフがそう青年に呼びかけると、彼は驚愕の表情を浮かべた。
『わたしの名前はアルフレートですけれど、どうしてわたしの名を知っているのですか?』
青年は英語でそうルドルフに尋ねると、勲章を彼に見せた。
『これは、貴方の物ですよね?』
青年の言葉に、ルドルフは頷いた。
「ここは何処だ?わたしは死んだ筈なのに何故生きている?」
『落ち着いてください、ここは病院です。貴方はハドソン川に転落してこちらに搬送されてきました。失礼ですが、貴方のお名前は?』
『・・ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ハプスブルク。』
青年はルドルフの名を手帳に書き取ると、そのまま病室から出て行こうとした。
「何処へ行く。」
青年を逃がすまいと、ルドルフが彼の腕を掴むと、彼は痛みに顔を顰(しか)めた。
その時、彼の左頬に傷跡がないことにルドルフは気づいた。
(こいつは、アルフレートじゃない・・)
「お前は誰だ?」
「落ち着いてください、貴方はまだ混乱しているだけです。」
青年はドイツ語でそう言ってルドルフの手をそっと自分の腕から離すと、彼に微笑んだ。
「あなたは川に転落した時、後頭部を強打したのです。その所為で混乱しているだけですよ。」
「わたしの質問に答えろ、さもなければ殺してやる。」
ルドルフはそう言うと、青年の首を絞めようとした。
だが、青年は恐怖に顔を引き攣(つ)らせることも、悲鳴を上げることもなかった。
ただ、ルドルフに優しい笑顔を浮かべるだけだった。
―ルドルフ様・・
ルドルフの脳裏に、アルフレートが自分に浮かべた優しい笑顔が甦った。
「やめろ、そんな顔でわたしを見るな。お前は、アルフレートじゃない!」
ルドルフがそう叫んだ時、彼は喉奥から何かが迫り上がってくるのが感じた。
シーツに赤い染みが広がり、ルドルフは自分が血を吐いたのだと解った。
「大丈夫ですよ、落ち着いて。」
「待て、何処へ行く?」
青年はルドルフの問いに答えず、病室から出て行った。
その後、看護師に注射を打たれ、ルドルフは再び意識を闇の中へと手放した。
病院の最寄駅から地下鉄に乗ったアルフレートは、上着のポケットから手帳を取り出し、自分の腕を掴んだ男の名を確かめた。
ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ハプスブルク。
それは、何処かで聞いた名だった。
『ルドルフ様は、とても立派なお方だったよ。国民の為に、国の為に自ら犠牲になったお方だった。』
生前、曽祖父が自分にそう話していたことがあった。
その時、曽祖父が口にした“ルドルフ様”が一体何者なのか―アルフレートは帰宅後すぐに、ノートパソコンの電源を入れた。
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