※BGMと共にお楽しみください。
土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
「土方様、この度は兄を助けて頂き、ありがとうございました。」
「礼なんて要らねぇ。それよりもあいり、お前これからどうするんだ?」
「うちは宿に戻ります。」
「そうか。夜道を女子一人で歩かせる訳にはいかねぇから、宿まで送ってやるよ。」」
「おおきに。」
歳三があいりを宿まで送っている頃、桂は真紀を診察した町医者から信じられない言葉を聞かされた。
「それは、確かなのですか?」
「はい。まだ母体の状態が不安定なので、くれぐれも無理をさせないようにしてください。」
「わかりました・・」
町医者が去った後、桂は真紀が寝ている部屋へと向かった。
「真紀、起きているか?」
「はい・・」
真紀は少し疲れた様子で布団からゆっくりと起き上がった。
「俺は、どこか悪いのですか?」
「真紀、落ち着いて聞いてくれ・・」
桂が真紀に妊娠を告げると、彼は突然涙を流した。
「どうした、真紀?」
「本当に、俺が・・」
真紀はそう言うと、そっとまだ膨らんでいない下腹に触れた。
「産むか、産まないかはお前が決める事だ。」
「わかりました・・暫く時間を下さい。」
「・・そうか。わたしは、出来る事なら産んで欲しい。」
桂はそう言うと、真紀を抱き締めた。
「俺に、“女”になれとおっしゃるのですか、桂さん?」
「そうではない・・」
「では、俺はこの子を諦めても良いのですね?」
「真紀・・」
「今まで俺があの廓の中でどんな思いで暮らしていたのか、わからないでしょう。あの時、俺が廓に火をつけていなかったら・・」
「真紀、落ち着け。」
「俺は、廓でただ死を待つだけの女を沢山この目で見てきました。俺は、彼女達のようにはなりたくありません!」
「わかった。真紀、落ち着いてくれ。お前は少し疲れているんだ。」
桂がそう言って真紀を抱き締めると、彼は小刻みに震えた。
「今はゆっくりと休むと良い・・」
「はい・・」
真紀の震えが治まった後、桂はそっと彼を布団に寝かせた。
「桂さん、おるかえ!?」
「大きな声を出さないでくれ。真紀が隣の部屋で寝ているんだ。」
「ほうかえ。じゃぁ、ちぃと何処かで一杯飲みながら話そうかのぅ。」
「・・そうだな。」
「ま、真紀が妊娠!?それは、本当かえ!?」
「わたしが今まで君に嘘を吐いた事があるかい?」
「まっこと、めでたい事ぜよ!赤飯を炊かないかんのう!」
「そんなに手放しで喜ぶ事が出来るのならいいのだが・・」
桂はそう言うと、猪口から酒を一口飲んだ。
「真紀は、わたしと出会う前に廓で暮らしていた。廓での暮らしは酷かったらしい・・真紀は左利きで三味線の撥を左手で持っていたというだけで、女将に左腕に火箸を押し当てられたんだ。」
「惨いのぅ・・」
「真紀は、廓に火をつけて逃げ出した。そうする事でしか生きる事が出来なかったんだ。」
「ほうか・・」
「真紀の母親は、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。母親の愛と温もりを知らない真紀はこれからどうするのかがわからないんだろうな・・」
「何じゃぁ、わしにはとんとわからんが、母親ちゅうもんは、すぐになれるもんじゃないぜよ。まぁ、わしらには一生わからん事じゃき、桂さんは真紀の事を見守ってやればええがじゃ。」
「・・君と話せて良かったよ。」
桂はそう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。
「送って下さって、おおきに。」
「いや、俺も少し歩きたかっただけだ。それじゃぁ、俺はもう行くぜ。」
「お気をつけて。」
宿の前であいりと別れた歳三は、朝日に包まれながら屯所への道を歩いた。
数歩歩いたところで、彼は背後から殺気を感じて振り向くと、そこには誰も居なかった。
(気の所為か・・)
歳三は安堵の溜息を吐いた後、再び歩き出そうとしたが、その時彼の前に一人の男が立ちはだかった。
「・・やっと見つけたぞ、土方歳三。」
「誰だ、てめぇ。」
総髪姿の男は、今にも漲らんばかりの殺気を真紅の瞳に宿らせながら、次の言葉を継いだ。
「お前は・・あの方を、“先生”を裏切ったのだ!今まであの方から受けてきた恩を、お前は全て仇で返したのだ!」
「話がわからねぇ・・俺は“先生”を裏切ってなんかいねぇ・・」
「問答無用!」
総髪姿の男はそう叫ぶと、歳三に斬りかかって来た。
男の殺気を感じたところで兼定の鯉口へと手を伸ばしていた歳三は素早く抜刀し、男の攻撃を受け止めた。
「てめぇは何者だ?」
「今から死ぬ奴になど、名乗りは不要!」
(こいつ、強ぇ・・)
歳三は男と刃を交わしながら、はじめて死への恐怖を感じた。
「貰ったぁ!」
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