「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
「それは?」
「気休めだが、土方さんの“力”を抑える役目があってな。」
「そうなのか・・」
「これを飲んだら、少しはマシになると思うぜ、土方さん。」
「あぁ・・」
紅い丸薬を飲んだ歳三は、そのまま布団に横たわった。
「じゃぁ、俺は一体何をすれば?」
「何もしなくていい・・」
「あ、はい・・」
こうして、静かに夜は更けていった。
「何だと、またあやつを取り逃がしたとな!」
「殿、あやつは半妖、我らがどう策を練ろうとも、容易く捕える事など出来ませぬ。」
そう言って夫をなだめたのは、彼の正室である月の方だった。
「そなた、何か策があるのか?」
「えぇ、あやつをここまで誘き出すのです。」
「どのように?」
「それは、秘密です。」
月の方はそう言うと、口端を上げて笑った。
「お方様。」
「あの者達の様子は?」
「それが・・」
月の方が寝殿から少し離れた西の対屋へと向かうと、女中達が何処か慌てた様子で彼女の元へと駆け寄って来た。
「ここから出して!」
「お願い、誰か助けて!」
西の対屋に結界を張られ閉じ込められた雪女達が口々にそう叫ぶと、そこへ月の方がやって来た。
「黙れ。」
月の方が持っていた扇子を一振りすると、雪女達の顔は苦痛に歪んだ。
「まだまだそなたらには躾が足りないようだな?」
「嫌ぁ、母様!」
「この娘を廓へ連れて行け。母親の方は薹(とう)が立っておるが、娘の方はまだまだ仕込み甲斐があろう。」
「はい。」
「娘はまだ十にもなりませぬ!どうか、廓へはわたくしを・・」
「妾に逆らうな。」
月の方はそう言って雪女の母親の方を睨みつけると、母親は胸を押さえて蹲った。
「母様~!」
「哀れな者共よ。」
月の方は雪女達から背を向け、西の対屋から出た。
「お方様、あの娘は何も手をつけておりませぬ。」
「強情じゃな。どれ、妾がその者を躾けてやろうぞ。」
月の方は、口元に嗜虐的な笑みを浮かべた。
小鳥のさえずりで、勇は目を覚ました。
隣で眠っている歳三を起こさぬよう、彼は厨へと向かい、朝食を作り始めた。
「うん・・」
「土方さん、もう大丈夫そうだな?」
「あぁ。あいつは?」
「近藤さんなら、さっき厨へ・・」
「おはよう、二人とも!」
歳三と左之助の前に、朝食を載せた膳を運んで来た勇が現れた。
「お前ぇ、まだここに居たのか?」
「あぁ。今朝は和食に挑戦してみました!」
「ほぉ・・」
膳には、一汁三菜の和定食が載せられていた。
「あ、お気に召さなかったら、下げますね。」
「べ、別に食べないとは言ってねぇ。」
歳三は顔を赤く染めながら、焼いたししゃもに箸を伸ばした。
「お茶、淹れて来ますね!」
「素直じゃねぇなぁ、土方さん。」
「う、うるせぇっ!」
(ったく、雪女の癖に天邪鬼なんだから・・)
厨で茶を淹れながら、勇はダウンジャケットのポケットからスマートフォンを取り出した。
それは、“圏外”のままとなっていた。
(ここは、一体何処なんだ?)
スマートフォンも繋がらない、それ以前に電気が通じない。
外部との連絡手段が絶たれた今、勇はどうやって元の世界で自分が無事である事を友人や家族に伝える術がわからず、途方に暮れていた。
「おい、今いいか?」
「はい。」
「町に買い出しに行くんだが、あんたその格好だと目立つから、この着物に着替えてくれって、土方さんが・・」
「土方さんが?」
「あぁ。あんたの為に土方さんが昨夜仕立てたんだと。」
「そうですか・・」
左之助から受け取った着物に勇が奥の部屋で着替えて出て来ると、丁度歳三も自室から出て来た。
彼は、いつも着ている白の小袖ではなく、藤色の訪問着姿に、金の帯を締めており、いつも下ろしている黒髪は丸髷に結われていた。
「あの、その格好は?」
「今日、人に会う事になっているからな。少しは着飾らないとな。」
「は、はぁ・・」
「それじゃぁ、行こうか。」
歳三と共に、勇は初めて山から下りて“町”へと向かった。
―あれは・・
―山に棲む妖・・
にほんブログ村