「薄桜鬼」の二次小説です。
制作会社様とは一切関係ありません。
土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
―貴女は、とても綺麗だ。
仄かな月明かりの下、自分に似た“彼女”を抱き締めた男は、そう言うと己の膝上へと“彼女”を抱き寄せた。
奥深くまで貫かれ、思わず悲鳴を上げた。
―辛いのなら、やめましょうか?
そう言って男は“彼女”から離れようとしたが、“彼女”は彼の背に爪を立てた。
―やめないで、もっとあなたを感じたいの。
二人は一晩中、互いの身体を貪り合うかのように激しく愛し合った。
―今夜は月が満ちている。魔力が最も高まる時期よ。
―この事が知られたら、どうなさるおつもりです?
―父上はもう何の力も持たない、唯の老人よ。それに、もう手は打ってある。
―では、陛下はいずれ退位されると・・
―いいえ、父上は民衆によって、“退位させられる”のよ。
―あなたは、恐ろしい女(ひと)だ・・
―わたしは、あの男への復讐をこれで終わらせるつもりなどないわ。これからが、復讐の始まりよ。
東の空が徐々に白み始め、“彼女”を抱いていた男の顔が天蓋の隙間から見えた。
その男は、風間千景と瓜二つの顔をしていた。
「トシゾウ様、朝食の時間です。」
「あぁ、わかった・・」
今まであんな夢など一度も見た事などなかったのに、この家に来てから、時折あの夢に出て来る“彼女”の存在が気になって仕方がなかった。
「旦那様の書斎ですか?」
「あぁ、義父(ちち)の書斎を少し見てみたいんだ。」
「そうですか。では、これを。」
伯爵家の執事長・ジョージは、そう言うと書斎の鍵を歳三に手渡した。
「旦那様が生前、この鍵をあなた様にお譲りするようにと・・」
「義父が?」
「はい。“来たるべき日が来たら、この鍵があの子を真実へと導いてくれる。”と・・」
「そうか・・」
歳三が書斎に入って養父の蔵書を調べていると、書棚に不自然な隙間が空いている事に気づいた。
(何だ、これ?)
歳三がその隙間を押すと、書棚の裏に隠されていた真紅の扉が現れた。
彼は首に提げている鍵を、扉の鍵穴にさし込んだ。
軋む音を立てながら扉が開き、埃と澱んで湿った空気が歳三の鼻腔を刺激し、彼は慌ててハンカチで口元を覆った。
部屋の中は薄暗く、不気味だった。
「“ルーモス。”」
杖を取り出した歳三がそう呪文を唱えて部屋の中を照らすと、壁には二枚の肖像画が掛けられてあった。
一枚目は、家族の肖像画で、ブロンドの男性と黒髪の女性がそれぞれ膝上にブロンドと黒髪の女児を抱えていた。
二枚目は、一枚目の肖像画に描かれていたブロンドの女児と同一人物と思しき喪服姿の女性が、物憂げな表情を浮かべているものだった。
歳三は額縁の裏を調べたが、何もなかった。
部屋から出ようとした歳三は、ブロンドの女性が、ちらりと自分を見たような気がした。
(気の所為か・・)
「待って。」
歳三が振り向くと、肖像画の女性は必死に額縁の中から出ようとしていた。
その様子を見た彼は、その女性が魔法族だとわかった。
「あなたは、誰ですか?」
「わたしは、シャルロット。あなたの叔母よ。」
「叔母?」
「その様子だと、あなたは自分自身の事を何も知らないようね。」
シャルロット―肖像画の女性はそう言うと、慈愛に満ちた眼差しを歳三に向けた。
「本当に、あなたは姉様・・カタリナにそっくりだわ。」
「カタリナ・・」
その名は、魔法史の本で見かけた事がある。
“冷酷無比、エディンバラの大殺戮を起こした、闇の女王”カタリナ。
「俺は、一体何者なんだ?」
「そこの机の、上から二番目の引き出しを開けてみて。その中に、真実が隠されているわ。」
シャルロットに言われるがままに、歳三がその引き出しを開けると、そこには赤革の古びた日記帳が出て来た。
「真実?」
「もう、時間がないわ・・」
「おい、向こうに誰か居るぞ!」
「ここから逃げて、早く!」
歳三が部屋から出た直後、彼は数人の警察官達に取り囲まれた。
「早くこの泥棒を捕まえて!」
そう金切り声で叫ぶシャルロットに、歳三は失神呪文を放った。
「母上!」
失神呪文を受けて床に力なく倒れた母親の方へとジョンが駆け寄ると、彼女はまだ意識があった。
「早くこいつを捕まえろ!」
歳三は書斎の窓から外へと逃げようとしたが、警官の一人が彼に向かってテーザー銃を撃った。
歳三は、盾の呪文で電撃を避けようとしたが、遅かった。
全身に電撃を喰らい、歳三は書斎の窓からまっさかさまに地面へと落下した。
「これで、邪魔者は居なくなったわね。」
「母上・・」
「大体わたしはあの子をこの家の養子にするのは反対だったのよ。」
意識を取り戻したシャルロットは、そう言うと地面に転がっている歳三の杖を拾い上げた。
「あいつはどうします?」
「わたくしに良い考えがあるわ。」
シャルロットはそう言うと、邪悪な笑みを浮かべた。
「何だと、教頭が行方不明だと!それは確かなのか、近藤!?」
「はい。本日こちらへ帰って来る予定だったのですが、未だに連絡が取れなくて・・」
「生徒達を余り動揺させぬようにしろ。」
「わかりました・・」
「山南さん、悪いが・・」
「生徒達はわたしの方から説明しますから、安心して下さい。」
「済まないな・・」
「いいえ、困った時は団結するのが一番です。」
山南はそう言うと、勇の肩を優しく叩いた。
「変身術教授である土方先生は、一身上の都合により暫く休職する事になりました。皆さん何かと不安だと思いますが、土方先生がお戻りになられる日まで、勉学に励んで下さいね。」
山南はそう言って笑顔を浮かべたが、生徒達の間には動揺が広がっていた。
「ねぇ平助、土方さんから何も聞いていないの?」
「あぁ。土方先生、かなり秘密主義だからなぁ。」
「そうか。」
“闇の魔術に対する防衛術”の授業が始まるまで、総司と平助がそんな事を話していると、教室にはキンキラハート教授ではなく、山南が入って来た。
「皆さん、おはようございます。」
「何で、山南さんが・・」
「レオンハート先生は、土方先生欠乏症で療養生活に入りました。」
山南の言葉に、何人かの生徒が吹き出した。
「さて、本日の授業は、“光と闇について”です。」
山南はそう言うと、教室の窓を全て閉め、ある映像を再生した。
「これは、闇の女王・カタリナの生涯を描いた映画です。後で感想をレポートとして羊皮紙二巻分提出して貰いますので、居眠りしないように。」
彼の言葉を聞いた生徒達が一斉にメモを取り始めた頃、歳三は一面白い壁に囲まれた精神病院の閉鎖病棟に監禁されていた。
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