表紙素材は、
このはな様からお借りしました。
「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
セバスチャンとユリウスは、日本人の母と、英国人の父との間に産まれた。
母は、かつて隆盛を極めた士族の出で、家計を助ける為芸者となり、お座敷で父に見初められ、二人を授かった。
しかし、父には英国に婚約者を残していた。
英国貴族である父にとって、母は星の数ほど居る愛人の一人だった。
混血の上に私生児を産んだ母は、置屋から追い出さされた。
路頭に迷い、行き倒れ寸前となっている彼らを救ったのが、今の義父だった。
義父は華族で、訳有りの母を正妻として迎えた。
彼は母方の祖母を呼び寄せ、共に暮らすようになった。
母方の祖母・文乃は、優秀なセバスチャンだけを溺愛し、ユリウスを事あるごとに蔑ろにし、時折彼を折檻するようになった。
同じ顔をしているのに、何でも出来るセバスチャンと、病弱で役立たずな自分。
いつしかユリウスは、自分に劣等感を抱くようになっていった。
そんな中、遠縁の伯父が亡くなり、彼の診療所をセバスチャンが継ぐ事になった。
セバスチャンは時折ユリウスに手紙を送ってくれたが、ユリウスは一度も返事を寄越さなかった。
だが、セバスチャンから出征するという連絡が来た。
『わたしが帰って来るまで、シエルをお願いします。』
セバスチャンの手紙の中にある『シエル』が何処の誰なのかわからず、ユリウスは混乱した。
取り敢えず、ユリウスは手紙に書かれていた住所を頼りに、セバスチャンの診療所を訪ねる事にした。
すると、そこには一人の少女の姿があった。
彼女が、セバスチャンが言っていた“シエル”だと勘で解った。
「失礼、貴殿がシエル=ファントムハイヴ殿か?」
ユリウスがそう少女に尋ねると、彼女は訝し気な視線を自分に送った後、静かに頷いた。
シエルはユリウスがセバスチャンの双子の弟だと名乗ると、彼女は証拠を見せろと迫って来たので、彼女に戸籍謄本を見せると、彼女の頑なだった態度はすぐさま軟化した。
そして、少女―兄の恋人・シエルを深川へと連れて来た。
自分の妻とする為に。
シエルは、美しい少女だった。
雪のように白い肌、そして左右違う色の瞳。
その瞳には兄しか映っていないが、それでもいいと、ユリウスは思っていた。
「シエル様、何をなさっているのです?」
「米を炊こうと思って・・」
「まぁ、ユリウス様の奥様となられる方に、そのような事はさせられません。」
「今、何と言った?」
「申し訳ありません、今の事は忘れて下さいませ!」
菊はそう言ってシエルに頭を下げると、台所から出て行った。
ユリウスが帰って来たら色々と問い詰めようとしたシエルだったが、彼は中々帰って来なかった。
「向こうのお宅で何かあったのでしょうか?」
「向こうのお宅?」
「ユリウス様のご実家は、銀座にあるのですよ。まぁ、色々と複雑な事情がおありなのかも・・」
「そうか・・」
シエルは米を研ぎながら、戦地に居るセバスチャンに想いを馳せていた。
同じ頃、セバスチャンは満州に居た。
(シエルは、元気にしているのでしょうか?)
セバスチャンはそんな事を思いながら、シエルへ手紙を書いていた。
「何だ、これ?」
「手紙ですよ、見てわからないのですか?」
「フン、相変わらず愛想のない・・」
セバスチャンの手紙を見ていた男は、そう言うと何処かへと行ってしまった。
彼は、セバスチャンとは同じ部隊で、何かとセバスチャンに突っかかって来る。
「またあいつかい。気にするな。」
「はい。」
「その手紙、里に居る恋人宛かい?」
「ええ。」
セバスチャンは、そう言うと部隊長にシエルの写真を見せた。
「ほぉ、中々の別嬪さんじゃないか。いくつだい?」
「今年で13になります。結婚は、シエルが成人するまで待とうと思っています。」
「健気だねぇ。」
舞い散る雪の中で、セバスチャンは凍える手を時折擦りながら、何とかシエル宛の手紙を書き終えた。
『シエル、元気にしていますか。ちゃんとご飯は食べていますか?こんなつまらない事を書くな、と、あなたはこの手紙をご覧になった後、お怒りになるでしょうね。ですが、このような月並みの言葉しか書けないわたしを許して下さい。どうかお元気で、あなたのセバスチャンより。』
その手紙は、シエルの元に届く事はなかった。
1945(昭和20)年元日。
新年だというのに、食糧難の所為でお節料理を作れず、元日の食卓には芋ばかり並んでいた。
育ち盛りのシエルにとって、それは満足な物ではなかったが、野菜の屑を浮かべただけの汁物や、大根の切れ端しかない漬物ばかり食べていなかったので、我が儘は言えなかった。
「ごちそう様でした。」
「あなたが、ユリウスのお嫁さんとなる方?おいくつなの?」
そう言った文乃は、シエルが床に入るまでシエルを質問攻めにした。
「いい加減にして下さい。シエルさんが怖がっているじゃありませんか。」
「でも・・」
「シエルさん、この人は放っておいていいので、先に部屋で休んでいて下さい。」
「はい・・」
セバスチャンとユリウスの継父・尚哉はそう言うと、シエルに微笑んだ。
「ありがとうございます、お義父様。」
その日の夜、シエルが自室で寝ていると、誰かが寝室に入って来る気配がした。
「セバスチャン・・?」
シエルが目を開けると、そこには文乃の姿があった。
「あの、何かご用ですか?」
「死ね!」
文乃はそう叫ぶと、老人とは思えないような力で、シエルの首を絞めた。
「お止め下さい、お祖母様!」
「この子が、この子が居るから、あの子は・・」
「大奥様、いけません!」
文乃を、女中達が数人がかりでシエルから引き離した。
「シエルさん、大丈夫ですか?」
「はい・・」
「お祖母様の事は、お気になさらないでください。」
(あの人は、何かを隠している・・)
シエルは深川の家に戻り、家事をしながら昨夜の事を思い出していた。
“この子が居るから、あの子は・・”
錯乱した文乃が言った、“あの子”とは、一体誰の事なのだろうか?
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