「どうぞ、狭い所ですけど上がって頂戴。」
亮子はそう言って歳三達を自宅に招いた。
きちんと整理整頓されたリビングには、彼女の趣味のキルトカバーが掛けられているテーブルがあった。
「ねぇ土方さん、あなた以前は教師をしていらしたのでしょう?」
「ええ、それが何か?」
「今の御主人は、あなたの教え子ですってね。道理で年が離れていると思ったわ。」
亮子が突然話を振って来たので、歳三は彼女を警戒し始めた。
「山久さん、何が言いたいのですか?」
「この際だから言わせていただくわ。あなたみたいな下品な方、ここには相応しくないのよ。ねぇ皆さん?」
亮子の周囲に居た主婦達は、彼女の言葉に賛同するかのように頷いた。
「教え子を誑かして子どもまで作って、恥ずかしいと思わないのかしら?厚顔無恥もいいところだわ。」
「そりゃぁ大変失礼いたしましたね。でもあんたみたいに人のあらを探して誹謗中傷するような女よりはマシだね!」
亮子の言葉に、歳三の堪忍袋の緒が切れた。
「何ですって、新入りの癖に生意気ね!」
「うるせぇ!てめぇが先に喧嘩売ってきたんだろうが!いちいち俺に絡んでネチネチ嫌味言いやがって。今度はお仲間と集中攻撃ってか?あんた人の事言えるほど偉いのかい?」
歳三の言葉に、亮子は怒りで顔を赤らめた。
「許せない、何処までわたしを馬鹿にするつもりなの!」
「はん、やろうってのか!だったらサシでやろうじゃねぇか。」
亮子とはここで決着をつけなくてはいけないと思った歳三は、そう言って上着を乱暴に脱ぎ捨てた。
「人を虚仮にしたツケは払って貰うからなぁ。」
「何よ、本気なの?」
「今更後にはひけねぇだろ?」
歳三が拳を鳴らすと、亮子は悲鳴を上げて彼女から後ずさった。
逃げようとした彼女の胸倉を掴んだ歳三は、彼女を壁に押し付けた。
「いいか、今後俺や俺の家族を悪く言いやがったらタタじゃ済まねぇぞ。名誉棄損で訴えてやる。あんたらもな。」
「証拠がない癖に!」
「証拠ならあるんだよ、ここにな。」
歳三はバッグからICレコーダーを取り出し、再生ボタンを押すと、先ほどの会話が全て録音されていた。
「これからどっちが悪いかわかるよなぁ?後でお仲間と一緒に悲劇のヒロイン面してご町内に触れまわってみろ、こいつをネットでばら撒いてやるからな。」
亮子は蒼褪め、床にへたり込んだ。
「じゃぁ、俺はこれで。」
山久家を出た歳三は、大きな溜息を吐いた。
「土方さん、山久さんと何かあったの?」
「ええ、ちょっと。」
「そう。余り相手にしない方がいいわよ。」
美津子はそう言って歳三の肩を叩いた。
「解りました。」
「ああ、あなたにお客様が見えているわよ。」
歳三が帰宅すると、男物の靴が玄関先に置いてあった。
「ただいま。」
「久しぶりだな、歳三。元気にしておったか?」
リビングに入ると、そこには藤原一臣会長の姿があった。
「会長、お加減は?」
「ああ、もう大丈夫だ。色々と大変だったな。」
「ええ。会長は何故こちらに?」
「娘と孫の顔を見たいというだけで来るのはいけないか?」
「いいえ、ちっとも。そういえば、今日の夕飯は鍋にしようと思っていたんです。会長もいかがですか?」
「ああ、いただこうか。」
そう言って自分に柔らかな笑みを浮かべた一臣は、病から全快したようだった。
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Last updated
2012年04月11日 23時10分30秒
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