「麗華さん、どうして英国に?あなたは日本に居る筈じゃぁ・・」
聖良は紅茶を飲みながら、麗華を見た。
「現在、英国の大学に留学中ですの。溪檎さんはわたくしの我儘に付き合っていただいて、スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)で研修中ですの。」
「そうなんですか・・」
聖良はちらりと麗華の隣に座っている溪檎を見たが、案の定彼は眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げていた。
「皇太子様、この後何かご予定はありますの?」
「本日は特に何も・・」
麗華はバッグの中から1枚の封筒を取り出した。
「わたくしの留学先の大学寮で、今夜7時からパーティーがありますの。よろしかったらいらっしゃってくだされば嬉しいんですけれど、如何かしら?」
(嫌ですとは言えないな・・)
「ええ、喜んで。」
聖良がそう言って封筒を麗華から受け取ると、溪檎があからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「あ~、疲れた・・」
朝食後、聖良は部屋に戻り、ソファに横たわりながらそう呟いた。
「お疲れ様です。あの方はどうやらセーラ様にご執心のようですね。」
リヒャルトがマドレーヌを聖良に渡しながら、ソファの隅に腰を下ろした。
「彼女とはあんまり会わないようにしようって昨夜決めたのに・・向こうが誘ってくるんじゃぁ断れないよなぁ・・」
「体調が悪いとおっしゃればよろしいのでは?それか、今夜からの予定を今から入れましょうか?」
「どっちも向こうの事嫌がってるのバレバレじゃん。今夜はパーティーに行って、そのあとはっきりと今後パーティーなどのお誘いはお断りいたしますと言うから、予定は入れなくていい。」
「ですが、あちらがもし嫌だとおっしゃったら、その時は?」
「その時は諦めるしかないな・・」
聖良は溜息を吐きながら、マドレーヌを一口齧った。
「麗華さん、皇太子様の何処がお好きなのですか?」
麗華が聖良をパーティーに招待したことで不機嫌となった溪檎は、そう言って婚約者を見た。
「皇太子様の何処が好きかなど、今はわかりませんけど・・あの方には何か惹かれるところがありますの。」
「それが僕には無い訳ですか・・」
「溪檎さん、嫉妬されてるの?可愛らしいこと。」
麗華はふふっと笑いながら、ミルトネス伯爵家の長い廊下を歩き始めた。
(この人と話していると調子が狂う・・一体何をお考えなのか、わからない・・)
溪檎は溜息を吐いて、麗華の後を歩いて行った。
「皇太子様、少しお時間よろしいですか?」
渡英してからというもの多忙を極めた聖良はベッドで休んでいるところだった。
ノックの音と共にミルトネス伯爵の嫡子、シャーロックの声がしたので彼はベッドから起き上がり、ドアを開けた。
「今休んでいたところだけど・・何か話したい事でも?」
「実は、僕の弟に会っていただきたいのですが・・」
「あなたの弟さんに?弟さんがいらっしゃるのですか?」
「ええ、弟・・ガブリエルは、産まれた時から入退院を繰り返してきて・・今は家族の元を離れてロンドンの病院で闘病生活を送っております。」
「そうなんですか・・」
「弟は皇太子様が我が家に来るのを楽しみになさっていて・・一度だけでも会って下さいませんか?」
シャーロックの真剣な瞳に、聖良は彼の弟に一目会ってみたい気がした。
「わかりました。これから支度します。」
「そうですか、ありがとうございます。」
聖良はシャーロックに微笑んで、ドアを閉めて身支度を始めた。
「セーラ様、どちらへ?」
「シャーロックさんと少し病院へ行ってくる。」
「お気をつけていってらっしゃいませ。」
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