シャーロックと共に、聖良はロンドン市内にある病院を訪れた。
「本日は忙しい中、わざわざ来ていただいてありがとうございました。」
「いいえ・・」
「弟の病室はこちらです。」
長い廊下のつきあたりに、シャーロックの弟の病室があった。
「ガブリエル、入るよ?」
「シャーロック兄様なの?」
病室の中からか細い声が聞こえた。
「ガブリエル、今日は兄様が大切なお客様を連れて来たよ。」
弟に微笑みながら病室に入ったシャーロックは、そう言って聖良を弟に紹介した。
「皇太子様、初めまして。ガブリエル=ミルトネスです。」
ベッドの上でコバルトブルーの瞳を輝かせながら、ガブリエルは憧れのセーラ皇太子に挨拶した。
「初めまして。」
聖良はそう言ってガブリエルに微笑み、優しく手を握ってくれた。
「またお時間があれば、弟に会ってやってください。」
聖良と共に弟の病室を後にしたシャーロックは、そう言って聖良を見た。
「今は忙しくて中々自分の時間がとれませんが・・何とか時間を取って会おうと思います。」
「そうですか・・弟が喜びます。これであの子の病状が良くなるといいんですが・・」
病院内のカフェテリアで、シャーロックは椅子に腰を下ろしながら溜息を吐いた。
「弟さん、何処が悪いんですか?」
「生まれつき心臓が悪くて・・産まれてから一度も病院の外に出たことはありません。両親やわたしは弟の看病にかかりきりで・・妹の事は全く気にかけてませんでした。」
聖良の脳裏に、ミルトネス伯爵家での最初の夕食の席で不機嫌そうな表情を浮かべた少女の姿が浮かんだ。
「妹・・エリザベスには、随分と寂しい思いをさせました・・きっと弟にわたしを取られて悔しい思いをしてきたことでしょう・・」
「そんな事ないと思いますよ。妹さんも、きっと解ってくれている筈です。」
「そうですか・・そうなら、いいんですけど・・」
その日、2人が病院を出たのは6時を過ぎた頃だった。
「すいません、遅くまで付き合わせてしまいまして・・」
「いいえ、俺は1人っ子で育ちましたから、何だかガブリエルが実の弟のようにあの子が見えてしまいました。弟さんのご病気、早く良くなるといいですね。」
「ええ・・ところで今夜はパーティーに出席されるのでは?大学は何処に?」
「少し顔を出す程度にしようかと思ってますから、長くはかかりません。」
聖良はそう言って招待状に書かれた大学の住所を見せた。
「では、わたしはここで。本日はお付き合いいただいてありがとうございました。」
「こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい。」
タクシーから降りた聖良は、パーティーが行われている大学寮へと向かった。
パーティーは丁度始まった所で、学生達がシャンパンやビール、食べ物を盛った皿を片手に談笑していた。
「あら、皇太子様、来て下さったのね。」
数人の女子学生と談笑していた麗華が聖良の姿に気づき、彼の方へと駆け寄って来た。
「麗華さん、少し静かな所で話せませんか?」
「ええ、いいですわよ。」
外に出て、聖良は深呼吸をして麗華を見ながら言った。
「麗華さん、今後このようなパーティーへのお誘いは一切しないでいただきたい。」
聖良の言葉を聞いた麗華の瞳が、驚きで大きく見開かれた。
「何故ですの?理由をおっしゃってくださいな。」
「俺はあなたには興味はありません。ですからこのような場所に誘うのは、迷惑です。」
言葉を継いで聖良は麗華を見ると、彼女はショックと怒りが綯い交ぜになったような表情を浮かべていた。
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