「本当なんですか?」
「ええ。明らかに顔見知りによる犯行ですけれど、何せ被害者の交友関係が幅広くて、犯人が特定できないんです。」
「それで、俺達に一体どうしろと?」
「大変申し訳ないのですが、一緒に現場まで来ていただけませんか?」
「わかりました。」
ウォルフとアレックスが殺人現場へと到着すると、そこにもマスコミが殺到していた。
「こちらです。」
立ち入り禁止テープを二人がくぐると、生々しい血痕がテーブルの上に広がっていた。
そばには空になったステーキ皿と、ワイングラスがあった。
アレックスはテーブルの血痕を見るなり、吐き気を催した。
「大丈夫か?」
「うん。」
「それで、ラリーの遺体は?」
「今解剖中です。彼の近親者に連絡は取れますか?」
「いいえ。」
確か、ラリーは天涯孤独だと言っていた。
「あの、遺体の引き取り手がないと彼はどうなりますか?」
「そうですね、無縁墓地に埋葬されます。」
「そうですか・・」
半開きになったクローゼットから、デザイナーズブランドのドレスが覗くのを見たアレックスは、もうこのドレスを着るラリーが居なくなったことを実感しはじめ、泣きそうになった。
「今日はわざわざ来ていただき、ありがとうございました。」
ラリーのアパートから出た二人に、パリス警部補はそう言って彼らに頭を下げた。
途中でタクシーを拾ってタンバレイン邸へと戻った二人に、ジェフが彼らに駆け寄ってきた。
「ラリーが殺されたっていうのは本当なのか!?」
「ああ。さっき現場を見てきた。」
「そうか・・信じられない、ラリーが死ぬだなんて!」
ジェフはそう叫んで肩を震わせながら嗚咽した。
ラリーの葬儀には『ジャーヘッド』の従業員たちや馴染み客達などが集まり、彼の死を悼んだ。
「ヘイ、ウォルフ。」
「アンディ、あんたも来てたのか。」
『ジャーヘッド』の用心棒・アンディは筋骨隆々とした体躯を喪服で包んでいる所為で、傍目から見ると『MIB』のエージェントに見えた。
「ラリーがあんな目に遭って俺も驚いてるよ。しかもあいつのラップトップも行方不明だと聞いた。」
「ラップトップが?」
「ああ、黒いやつだ。そこに顧客の情報が全部入ってる。まぁ用心深いラリーのことだから、バックアップはちゃんと取ってるさ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「じゃぁな、お二人さん。」
「じゃぁね。」
アンディと別れた二人が墓地を後にすると、ウォルフは車のボンネットに何かが置いてあることに気づいた。
「何、それ?」
「さぁな。」
封筒の封を開けて中身を確かめると、それはラリーの黒いラップトップだった。
「ここから離れよう。」
「そうだね。」
墓地から走り去るウォルフの車を、木陰からある人物が見ていた。
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