自業自得とはいえ、祐司と共に育んできた5年もの結婚生活がいとも簡単に終わることになろうとは、思いもしなかった。
しかし、もう後戻りはできないのだ。
彼と離婚し、子ども達を手放すーそれが香帆に残された唯一の道なのだから。
「ただいま。」
「お帰りなさい。どうだったの?」
「離婚することになった。」
母に離婚することになったことを告げると、彼女は何も言わずに奥へと引っ込んでいった。
子ども達には、ママはお仕事で遠いところに行くことになったから、パパと三人で仲良く暮らすようにと言おう―香帆はそう思いながら勇太郎と篤朗が居る部屋へと向かった。
「ママ、パパはいつ迎えにくるの?」
「明日、迎えに来るよ。それよりもゆーちゃん、ママ、明日からお仕事ですごく遠いところに行かないといけなくなったの。それまでパパとあっちゃんと仲良く暮らしてくれる?」
「うん・・」
まだ5歳の勇太郎に、不倫だの離婚だのという大人の事情はわからない筈だが、両親の様子が尋常ではないと、彼なりに察しているようだった。
「ママ、これからママは一人なの?」
「うん、そうなるね。あっちゃんと仲良くしてあげてね。」
「わかった。」
その日の夜、香帆は子ども達と二人で川の字で寝た。
翌朝、祐司が子ども達を迎えに来た。
「あなた、子ども達のことを宜しく頼みます。」
「ああ、わかったよ。」
子ども達を先に車に乗せ、祐司はそう言うと香帆に微笑んだ。
「元気でな。」
「あなたも。」
祐司は何かを言いたそうに暫く口を動かしていたが、結局何も言わずに車に乗り込んだ。
三人が乗った車が住宅街の角を曲がって完全に見えなくなってしまったとき、今まで堪えていた涙を香帆は流し、地面に崩れ落ちた。
「父さん、最近香帆さん来ないね。」
「ああ・・」
昨夜のドライブから、香帆がどうなったのか、彼女と縁を切った今になって歳三はわかるはずがなかった。
「じゃぁ、俺朝練に行って来る。」
「気をつけて行って来いよ。」
「わかった、行ってきます。」
香は玄関から外へと向かうと、最寄のバス停まで歩き始めた。
「寒ぃ・・」
街はクリスマスムードで溢れ、朝晩になると凍えるような寒さが肌に突き刺さる。
厚手のコートを羽織っていてよかったと香は思いながら、バスに乗り込んだ。
『次は~高校前、~高校前』
目的地を告げるアナウンスが車内に流れたので、香は降車ボタンを押した。
定期を見せてバスから降りようとした彼の肩を、誰かが叩いた。
「ねぇ、そこの君。」
「何ですか?」
不機嫌さを微塵にも隠さずに香がそう言って背後を振り向くと、そこには私立のお嬢様学校の制服を着た少女が立っていた。
「あなた、土方香くんでしょ?少し話したいんだけど、いいかな?」
「忙しいんで。」
「ちょっとでもいいじゃない。」
少女は香にしつこく食い下がり、己の腕を彼の腕に絡ませてきた。
ちらりと背後に目をやると、他の乗客が迷惑顔で香を見ていた。
「運転手さん、降ります。」
香はさっと少女の腕を振りほどくと、バスから降りていった。
少女が何か言おうと口を開いたとき、バスの自動扉が閉まり、高校の前から離れた。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012年11月26日 13時20分11秒
コメント(0)
|
コメントを書く
[完結済小説:美しい二人~修羅の枷~] カテゴリの最新記事
もっと見る