「ガブリエル、やっと来たのか。」
そう言うと、セーラ皇太子はガブリエルに微笑んだ。
「あなた・・」
「あれぇ、君も来てたんだ。」
ガブリエルはちらりと愛美を見ると、セーラの方へと向き直った。
「ちょっと待ちなさいよ!どうしてあなたがここに居るの!?」
「どうしてって?それは僕達が大貫家から招待されたからさ。母上が今年のクリスマスは日本で過ごしたいからって言ってね。ミスター・オオヌキがクリスマスパーティーの場所を提供してくださったのさ。」
「そうなの。それにしてもまさか、あなたのお母様がセーラ皇太子様だったなんて、知らなかったわ。」
「僕は家柄に鼻をかけて威張ることが大嫌いでね。それに皇族だとわかれば、誰からも特別扱いされるから、嫌なんだ。」
「変わっているわね、あなた。わたしだったら、そんな事気にしないのに。」
愛美がそう言ってシャンパンを飲むと、ガブリエルは呆れたような顔をした。
「君って、本当に嫌な女だね。ま、僕は相手にしないけど。」
「何ですって!?」
侮辱された愛美は怒りで顔を真っ赤にしながらガブリエルに掴みかかろうとしたが、既に彼は自分の前から去ったあとだった。
(何よあいつ、ムカツク~!)
「さっきはあのお嬢さんと楽しそうに話をしていたな、ガブリエル?」
「何をおっしゃいますか、母上。彼女は余り気に入らないんですよ。上手くは言えないのですが、何だか家柄を鼻にかけているようで・・」
「まぁ、そんなことを言うな。それよりもお前、まだ国には帰らないつもりなのか?」
「ええ。来年は卒論に就職活動と、色々と忙しくなりますから。せめてそれらが一段落してから帰ろうと思います。」
「そうか。お前はひとつのことに取り掛かると、夢中になる性格だからな。お前のことを恋しがっているナターリアにあと1年我慢しろと言っておくよ。」
「ありがとうございます、母上。」
「いいんだ。さてと、わたしは少しトイレに行ってこようかな。」
セーラ皇太子はそう言うと、ドレスの裾を摘みながら大広間から出て行った。
「セーラ皇太子様は、おいくつになられてもお美しいわね。」
「そうね。来年50歳となられるのに、スタイルは20代の頃のままだわ。」
「元は警察官として働いていらしたし、スポーツもなさるから、美しい身体を維持していらっしゃるのね。」
「羨ましいわぁ。」
ご婦人達は口々にセーラ皇太子の抜群のスタイルを誉めそやしながら、カナッペを食べていた。
「皆様、ご無沙汰しております。」
「あら、愛美さん、御機嫌よう。お母様は最近お元気かしら?」
「ええ。」
ご婦人達の中で和服姿の女性がそう言うと、意地の悪い笑みを浮かべながら愛美を見た。
「そう、それはよかったこと。昨日、銀座のカフェで大暴れしているところを見てしまったから、どうなさったのかしらと思って。」
「そうそう、訳のわからない言葉を喚き散らしていましたものねぇ。」
ご婦人達は含み笑いを浮かべながら、愛美を見た。
「あの、わたくしお手洗いに行ってまいります。」
「あら、そう。」
愛美が大広間から出て行くと、ご婦人達が何かを話してドッと笑い出した。
彼女達から聞いた話が、本当であることを愛美は信じられなかった。
最近母の様子がおかしいと思っていたが、公衆の面前で暴れるほど精神的におかしくなってはいないと愛美は信じたかった。
しかし―
『広田愛美さんですね?実は、お母様がコンビニで暴れてガラスを破損しまして・・』
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