「失礼いたします、お嬢様。」
「ねぇ、ママはどうしているの?」
「奥様は、いまだ留置場におられます。」
「そう。今日は誰もここには通さないで。ゆっくり休んで考えたいことがあるの。」
「そうですか。かしこまりました。」
執事はそれ以上何も言わず、愛美の部屋から出て行った。
愛美はシーツを頭から被りながら、これまで自分の身に起きていることを少し頭の中で整理してみた。
愛子が自分の腹違いの姉であると知らされ、その所為で母が発狂して暴れたこと。
そんな状況に耐えられなくなり、愛子に対して一方的に絶交を言い渡したこと。
愛美は溜息を吐いて寝ようとした途端、携帯が鳴った。
(誰からだろう?)
液晶画面には、テニスサークルで知り合った篤の名前が表示されていた。
篤は女癖が悪く、同じサークル内に浮気相手が何人か居たが、彼女達に飽きると一方的に捨てている悪名高い男だった。
愛美ははじめワイルドな印象の篤に惹かれたが、彼の本性を知って一週間もしないうちに別れた。
そんな彼が、今更自分に何の用なのだろう―そう思いながら、愛美は通話ボタンを押した。
『もしもし、愛美?』
「何の用なの?」
『あのさぁ、美砂って覚えてる?お前と仲良くしてた子。』
「覚えてるわよ、その子がどうかしたの?」
『あいつがさぁ、何か誤解してお前の友達・・愛子ちゃんだっけ?彼女を締めておこうっていう話を聞いてさ~、何かヤバイなと思ったんだよね。』
「何なのよ、それ!?一体いつ聞いたの!?」
『え~っと、今朝早く・・』
「何でもっと早く言ってくれないのよ、馬鹿!」
愛美は携帯を閉じると、部屋着を脱ぎ捨てワンピースへと着替えた。
「迫田、車回して!今すぐ大学に行くわ!」
「かしこまりました!」
愛美は愛子の無事を祈りながら、大学へと向かった。
一方、愛子は図書館に避難した。
(どうしてこんなことになったのかしら?わたしが一体いつ愛美を裏切ったっていうの?)
愛子は溜息を吐くと、バッグの中で携帯が鳴っていることに気づいた。
「もしもし?」
『愛子、あたしよ、今何処!?』
「図書館だけど・・どうしたの、愛美?」
『あたしの所為で、美砂が暴走しちゃったみたい!お願いだから、あたしが来るまでそこに居て、いいわね!?』
「え、ちょっと・・」
一方的に電話を切られ、愛子は状況が全くわからずに携帯を握り締めた。
「愛子、どうしたのその傷!」
図書館に着いた愛美は、愛子の顔に残るあざを見て叫んだ。
「ちょっと、転んだの。」
「美砂たちがやったのね!?そうなんでしょう!?」
「違うわ・・」
「そうだよ、彼女達は集団でこの子を取り囲んでリンチしてたんだ。僕が偶然中庭を通りかからなかったらどうなっていたか。」
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