「おはようございます、斎藤先生。」
「おはよう。」
「沖田先生は?」
「ああ、あいつならまだ不貞寝をしている。何でも昨夜、副長に甘えようとしたら部屋から追い出されたそうだ。」
「え・・」
「昨夜、お前に色々と嫌味を言ったそうだな?」
「はい・・あの、それが何か?」
「あいつは嫉妬深くてな、お前は副長に気に入られているから、あいつにとって面白くないのだろう。あまり気にするな。」
「はい。」
そう言われたものの、直属の上司である総司に辛く当たられ、ゆきは少し気が滅入っていた。
「そういわれても、毎日顔を合わせるたびに辛く当たられると気が滅入るだろう。何かあったら俺に言え。」
「ありがとうございます。では、わたしはこれで。」
ゆきは斎藤に頭を下げると、大広間へと向かった。
「あ~あ、もう帰っちゃうのかぁ、少しは遊びたかったなぁ。」
「総司、いい加減にしろ!俺達は遊びで来てる訳じゃねぇんだ。」
「は~い、わかりましたよ。ったく、土方さんはいつもガミガミとうるさいなぁ・・」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言ってませ~ん。」
「ったく、いつまで経ってもガキなんだから・・」
歳三は眉間を揉みながら、総司たちを引き連れて京へと戻った。
「松崎君、もたもたしないでね。」
「はい、わかりました。」
不意に総司に話しかけられ、ゆきは慌てて返事をした。
「ふぅん、返事だけは元気いいんだね?ま、足手まといにならないといいけど。」
不敵な笑みを口元に湛えながら、総司はゆきに背を向けて歳三のほうへと走っていった。
「あ~疲れた。土方さぁん、一緒にお風呂入りましょうよ。」
「入るか馬鹿。俺ぁ仕事が溜まってんだ。」
「何だ、つれないなぁ。いいですよ、斎藤さんと入りますから!」
「勝手にしろ!」
売り言葉に買い言葉で、総司は歳三に憎まれ口を叩くと副長室から出て行った。
「また副長と喧嘩したのか?」
「うん。最近土方さんと顔を合わせれば喧嘩ばかりなんだよね。もう土方さん僕に飽きたのかな?」
「お前がしつこ過ぎるからだろう?」
「斎藤さんまでそんなこと言うんですね。もう一人でお風呂入っちゃおうと!」
「いや、風呂は一人でも入れるだろう。」
斎藤の突っ込みを完全に無視して、総司は頬を膨らませながら部屋から出て行った。
「副長も大変だな、総司の駄々捏ねに・・」
「ああ、大変だよ。」
不意に襖の向こうから声が聞こえたかと思うと、歳三が部屋に入ってきた。
「副長、いつからそこに?」
「さっきからだ。総司の駄々捏ねは今に始まったことじゃねぇが、困ったもんだ。」
「そういわれましても、俺にはどうすることもできません。」
「そうだろうな。あの嫉妬深い性格には少しついていけねぇ気がしてならねぇんだ。」
「心中お察しいたします・・」
総司の悋気に悩む歳三を前に、斎藤はそんなことしか言えることができなかった。
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