「用意は出来たの?」
ルイーゼとガリウスが悪戦苦闘の末、部屋の掃除を終了させたのは、時計の針が12時を打った頃だった。
「はい奥様。」
「遅くまでご苦労だったわね。もうお休みなさい。」
「では、俺達はこれで失礼致します。」
階下の使用人部屋へと向かう彼らと入れ違いに、マルセラが階段を上がって来た。
二人は彼女に目礼すると、マルセラは鼻を鳴らして奥の寝室へと向かっていった。
「いけすかねぇ婆だな。」
「ホント。奥様が嫌う理由がなんとなくわかったような気がするよ。」
使用人部屋に入ろうとしたルイーゼがそう言った時、マルセラの怒鳴り声が聞こえた。
「一体何ですか、この部屋は?まるで物置部屋じゃないの!」
「まぁ、物置部屋とは失礼な。お義母様の為に用意した部屋ですのよ。」
アンヌは憤然とした様子の姑を冷たく見下ろしながらそう言うと、踵を返した。
「待ちなさい、何処へ行くつもり!?」
「わたくし、疲れたからもう休みます。そんなに用意されたお部屋がご不満ならば、廊下で寝て下さいな。」
「ちょっと、まだ話は終わっていなくてよ!」
姑の怒鳴り声をもう聞くつもりがなかったアンヌは、後ろ手で寝室のドアを閉めると、寝台に横たわった。
「奥様、失礼致します。」
「誰?」
「ルイーゼです。」
「入って。」
「失礼致します。」
ルイーゼがアンヌの寝室に入ると、まだ彼女は夜着に着替えていなかった。
「あのう・・」
「ああ、さっきの会話を聞いたのね?あの人はわたしに難癖をつけるのが好きなのだから、気にしなくていいのよ。それと、彼女の身の回りの世話はしなくてもよろしい。」
「ですが奥様、それだと余計ヤバいのでは・・」
「突然何の連絡もせずにやって来る客人は、迷惑でしょう?まぁ義母には早々にローマにお帰りいただくことになるわ。ルイーゼ、下へ行って水を汲んで来て頂戴。白粉を取りたいの。」
「かしこまりました、奥様。」
ルイーゼはアンヌの寝室から出て井戸で水を汲んでいると、ガブリエルの寝室の方から悲鳴が聞こえた。
「お嬢様、どうかなさいましたか!」
急いで二階に上がったルイーゼがガブリエルの寝室のドアを叩くと、中から恐怖に顔をひきつらせたガブリエルが中から飛び出してきた。
「一体何があったのです?そんなに怯えて・・」
「さっき眠ろうとしたら・・ベッドに、鳥の死骸が・・」
ルイーゼの胸に顔を埋めながら、ガブリエルは震える手で寝台を指した。
「あたしが見て来ますから、ここを動かないでくださいね。」
ルイーゼはそう言うとガブリエルの寝室の中に入った。
寝台の方に近づくと、確かにその上には内臓を引き裂かれた鳥の死骸があった。
しかも死後数週間は経っているようで、死骸からは蛆が湧き始めていた。
「ガブリエル、一体どうしたの?」
「奥様、お嬢様のベッドに何者かが鳥の死骸を・・」
「すぐにシーツを鳥の死骸ごと焼き捨てなさい。」
「かしこまりました。」
ルイーゼは素早く鳥の死骸をシーツで包み、それを両手に抱えて外へと出ようとした時、騒ぎを聞きつけたジュリアーナがドアの隙間から顔を出した。
ルイーゼと目が合った彼女は、何処か満足気な笑みを浮かべてドアを閉めた。
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Last updated
2013年05月18日 16時16分38秒
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