「驚きましたわ、まさかあなたと宮廷でまたお会いできるだなんて。」
「わたしもですよ、ガブリエル様。お母上様はご息災であらせられますか?」
父の策略に嵌り、異端審問所にアンヌがその身柄を拘束されていることを知りつつも、ユリウスはそうガブリエルに尋ねずにはいられなかった。
「母は少し体調を崩しておりますけれど、元気ですわ。」
「そうですか、それはよかった。」
「ユリウス様、ひとつお聞きしたいことがありますの。」
「わたしにですか?」
「ええ。何故、あなたのお父様はお母様を陥れるようなことをなさったの?お二人の仲が悪いと聞いていらしたけれど・・」
「それは、わたしにも解りません。ただひとつ言えるのは、父はあなたのお母様・・アンヌ様に嫉妬しているからだと思います。」
「嫉妬ですって?お母様に?」
「ええ。アンヌ様は政治的手腕に長け、陛下のご信頼も厚い方。対して陛下は父に対して余り良い印象を持っておられない。その違いが、アンヌ様への敵愾心(てきがいしん)と嫉妬に芽生えたのだと思います。」
宮廷で己の身を守り、確固たる地位を得る為には、国王からの絶大な信頼を得るのが一番である。
リューイは何とか国王からの信頼を得ようと金品を彼に献上し奮闘したが、結局国王は彼に対して不信感を抱いただけで終わってしまった。
だがアンヌは、いとも簡単に人嫌いで気難しい性格の国王からの信頼を得て、押すに押されぬ地位へとあっという間に上りつめた。
女だと彼女を侮っていたが、その女に足元を掬われたリューイにとって、アンヌは己の誇りを傷つけた許し難い宿敵となった。
「あなたのお父様のような立派な方でも、誰かに嫉妬なさるのね?」
「人間は完璧ではありません。どんな聖人君子でも、時には他人に嫉妬いたします。」
ユリウスがそう言ってガブリエルを見た時、彼の脳裏に今は亡き恋人・ミシェルの顔と重なった。
従兄弟同士だからだろうか、ミシェルとガブリエルは瞳の色こそ違うものの、良く似ている。
“ミシェル”
彼の事を思い出すたびに、彼を手に掛けた時の事を思い出したユリウスは、少し息苦しさを覚え、胸を押さえた。
「どうかなさったの?」
「いえ、何でもありません。少し休めばよくなります。」
「でも・・」
「大丈夫ですから、本当に。」
ユリウスの蒼褪めた顔を見たガブリエルが誰かに助けを呼ぼうと大声を出そうとした時、ヴィクトリアスの姿が廊下に現れた。
「ヴィクトリアス様、助けて下さい!」
「どうなさいましたか、ガブリエル様?」
「この方が・・ユリウス様が急に苦しまれて・・」
「ユリウス様、あちらへ横になって下さい。」
「わかった・・」
ユリウスが苦しそうに喘ぎながら近くの長椅子に横たわると、ヴィクトリアスが慣れた手つきで彼の上衣を脱がし始め、脈を取った。
「恐らく、過呼吸でしょう。」
「ヴィクトリアス様、医術の心得がおありですの?」
「ええ。」
ガブリエルに羨望の視線を向けられ、ヴィクトリアスは少し照れ臭そうな顔をして俯いた。
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Last updated
2013年05月18日 16時31分14秒
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