「沖田選手、金メダル獲得おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「如何ですか、金メダルを持った感想は?」
「そうですねぇ、表彰台で金メダルを首から提げた時、余りにも重いので表彰台から落ちそうになりました。」
「それは大変でしたね~。」
バンクーバーオリンピックで金メダルを獲った沖田総美(さとみ)は、この日朝の情報番組にゲストとして出演していた。
「沖田選手は、今一番何がしたいですか?」
「そうですねぇ、ゆっくり休みたいです。でも、暫くは無理そうですね。」
「本日はお忙しい所を出演してくださって、ありがとうございました。」
出演するコーナーが終わってスタジオから出て控室に戻った総美は、溜息を吐いて椅子に座った。
「総美、お疲れ様。はいこれ。」
「ありがとう、ママ。」
美香から缶コーヒーを受け取った総美は、缶のプルタブを開けると、コーヒーを一口飲んだ。
「これから忙しくなるけど、余り身体を壊さないようにしてね。」
「わかっているわ、ママ。」
総美が金メダルを獲ってテレビに引っ張りだこになってから、美香は彼女のマネージャーのような仕事をしていた。
「この後はCMの撮影だから、それを飲んだらすぐに移動するわよ。」
「わかった。」
美香とともにテレビ局の建物から出た総美は、出入り口付近で待ち伏せしていたファンに取り囲まれた。
「総美ちゃん~、こっち向いて!」
「サインしてぇ~!」
ファン達はスマートフォンや携帯のカメラを総美に向けては黄色い歓声を上げていた。
「ねぇママ、パパ達はどうしているの?」
「パパは、自分達の事は何も心配要らないから、お仕事頑張れって言っていたわ。」
「そう・・」
「ねぇ総美、千尋ちゃんのこと聞いた?」
「千尋ちゃんのこと?」
「あなたはあの時バンクーバーに居たから知らないのよね、吉田先生の隠し子騒動のことを。」
「吉田先生って・・確かパパと大学時代の先輩だったっていう人?」
「そうよ。その吉田先生、千尋ちゃんのママと昔不倫していたんですって。」
「それ、本当なの?」
「本当よ。」
「そう・・」
総美はそう言うと、窓の外の風景を眺めた。
「吉田先生は、今何処に?」
「金沢のホテルで突然倒れて、金沢市内の病院で入院しているんですって。総美、どうしてそんな事を聞くの?」
「別に。」
「ねぇ総美、千尋ちゃんとは余り仲良くしないようにしなさいね?あんな家の子と仲良くしているって噂されたら、総美のイメージダウンに繋がっちゃうでしょう?」
「ママ、昔は千尋ちゃんの事気に入っていたじゃないの。それなのに、どうして今はそんな事を言うようになったの?」
総美がそう言って運転席に座る美香を見ると、彼女は総美と目を合わせないようにしていた。
(ママ、一体どうしちゃったの?昔はそんな事を言うような人じゃなかったのに・・)
ライン素材提供:White Board様
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