「おはよう、母さん。」
「ちーちゃん、おはよう。」
「父さんは?」
「パパは、ちーちゃんが起きる前に会社に行ったわ。何でも、大きなプロジェクトを抱えて今大変なんですって。あ、これちーちゃん宛にさっき届いていたわよ。」
「有難う。」
育美から郵便物を受け取った千尋は、ペーパーナイフでその封を切った。
中身は、ワープロ打ちの招待状だった。
『明日夜八時に、下記の場所にてパーティーを開催いたしますので、是非ご出席くださいますようお願いいたします。』
千尋が差出人の住所が書かれている封筒の裏を見ると、そこには土方歳信の名があった。
「母さん、これ誰から渡されたの?」
「さっき、黒塗りの車が家の前に停まって、そこから出てきたスーツ姿の運転手さんに直接渡されたのよ。それ、誰からだったの?」
「土方先生のお父さんから、パーティーの招待状が来たんだ。是非来て欲しいって書いてあった。」
「まぁ、そうなの。じゃぁちーちゃんの為に素敵なドレスを用意しないとね。」
「母さん・・」
千尋が嬉しそうにはしゃぐ育美の姿を見て溜息を吐いている頃、土方家のダイニングルームでは信子達が別居することで歳信と口論になっていた。
「家を出て行くことは許さん!今まで一緒に暮らしていたというのに、急に家を出て行くとはどういうつもりなんだ!」
「父さん、あたし達は今まで父さんの世話になったけれど、子供達も大きくなって色々とお金がかかるし、ここからじゃ子供達を幼稚園や学校に通わせるには遠いのよ。数日前下見したマンションは駅や学校にも近いから、片道30分もかからないの。」
「運転手を雇って、送り迎えさせてやればいいだけだ。」
「今友香が通っている幼稚園は、普通の幼稚園なの。わたしは幼稚園のママたちと普通のお付き合いをしたいの。」
信子はそう言うと、椅子から立ち上がった。
「まだ話は終わっておらんぞ、戻ってこい!」
「もう話は終わったわ。」
「姉貴、本気なのか?」
「ええ。もうこの家に住むのは嫌なのよ。もう父さんに色々と子供達の教育の事で干渉されるのはうんざりなの。」
「義兄さんとも、よく話したのか?」
「ええ。駿弥さんも、もうこの家から出たいと前から思っていたそうよ。トシ、あんた一人で大丈夫なの?」
「ああ。姉貴、明日のパーティーには出るんだろう?」
「まぁ、一応土方家の一員として出席はするけれど、仲のいい親子をお客様の前で演じたくはないわ。」
「いつ、ここから出て行くんだ?」
「もう荷物は引っ越し先のマンションの部屋に運んであるの。子供達を迎えに行って、その後すぐに引っ越し先のマンションに行くわ。」
「そうか。」
「別にあんたとは姉弟の縁を切った訳じゃないんだから、気軽に遊びに来てもいいのよ。」
「わかった。」
ダイニングルームに戻った歳三は、コーヒーを飲みながら歳信を見た。
「何だ?」
「明日のパーティー、姉貴は出るってさ。」
「そうか。歳三、明日のパーティーは一応わしの健康と長寿を祝うパーティーとなっているが、お前の嫁探しがメインのパーティーになっている。」
「またその話か・・いい加減、俺を無理矢理再婚させるのは諦めたらどうなんだ?」
「お前は土方家の跡取りだ。それ相応の家柄のお嬢さんを嫁として迎えるのは、当たり前だろう?」
にほんブログ村