歳三が牢屋から出ると、レイチェルが警察署の前で待っていた。
「トシゾウ様、ごめんなさい。わたくしの所為で、酷い目に遭ったわね。」
「俺に触るな。」
馴れ馴れしく自分と腕を組もうとするレイチェルを、歳三は邪険に振り払った。
「わたくし、あなたの事を諦めないと言ったでしょう?」
「うるせぇ、さっさと俺の前から消えろ。」
歳三がそう言ってレイチェルを睨みつけても、彼女は嬉しそうな顔をしていた。
(気色悪い女だ。腹の底で一体何を考えているんだか・・)
「先輩、釈放されたんですね。」
「ああ。みんな、心配かけちまって済まねぇな。」
士官学校に戻った歳三がそう言いながら自分の元に駆け寄って来た下級生達の顔を見ていると、食堂に千尋が入って来た。
「先輩、お帰りなさい。」
「千尋、今話せるか?」
「はい。」
千尋が歳三とともに音楽室に入ると、そこには先客が居た。
「あら、二人とも今からわたくしに内緒のお話かしら?」
「お前、別荘に帰ったんじゃないのか?」
「いいえ、わたくし今夜は別荘には泊まらずに、ここに泊まりますわ。」
レイチェルはそう言うと、ピアノの前から立ち上がった。
「本気か?泊まるっていったって、何処で寝るんだ?」
「もちろん、あなたのベッドに決まっているじゃありませんか。」
レイチェルは歳三にしなだれかかると、彼の胸に己の頬を擦り付けた。
「千尋、こいつの事は気にするな。」
「そうは言いましても・・」
千尋はそう言うと、歳三に抱きついて離れようとしないレイチェルを見た。
「チヒロさん、あなたも一緒にトシゾウ様と寝る?」
「馬鹿な事を言うな。」
「ふふ、トシゾウ様って、案外初心(うぶ)なのね。」
レイチェルは顔を赤くして怒る歳三を見ながら嬉しそうに笑った。
その日の夜、千尋は浴室でシャワーを浴びながら今頃レイチェルが歳三の部屋で何をしているだろうかと、気になって仕方がなかった。
「セン、どうしたの?浮かない顔をして、何か悩みでもあるの?」
「うん、ちょっとね。」
「もしかして、土方先輩の婚約者のこと?大丈夫、先輩はあんな女に簡単になびいたりしないよ。」
「そうだね・・」
千尋は隣のベッドで寝ているエメリーを起こさぬよう、そっと部屋から出て歳三の部屋へと向かった。
歳三の部屋のドアを開ける前、千尋は裸で抱き合っているレイチェルと歳三の姿を想像してしまった。
ドアを開けて中に入ると、歳三は何故か床で寝ており、レイチェルの姿は何処にもなかった。
千尋が歳三の枕元に向かうと、彼は千尋がそばに居るにも関わらず、全く起きる気配がなかった。
(先輩の寝顔、初めて見たな・・)
千尋がじっと歳三の寝顔を見ていると、突然歳三が布団から起き上がるなり、千尋を抱き締めた。
「先輩、一体どうし・・」
千尋がそう言って歳三を見ると、彼は焦点が定まらない目で千尋を見つめ、再び布団の中へと戻っていった。
彼を起こさぬよう、千尋はそっと歳三の部屋から出て行った。
千尋が部屋から出て行った後、部屋に戻ったレイチェルが歳三の布団の中に潜り込んだ。
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