土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
「宮下君、君は何者なんだい?」
「それは、秘密です。」
「まるで君の身体は、甘い毒のようだな。」
「伊東先生、俺の事をお気に召しましたか?」
「あぁ。」
―陥落(おち)た。
伊東に抱かれながら、真紀は口端を歪めて笑った。
歳三は夏を迎えた途端、急に悪阻が酷くなり、寝込む事が多くなった。
「トシ、大丈夫か?」
「畜生、自分の身体だってのに何でこんなに辛いんだ・・」
「薬は飲んだのか?」
「あんなの、全然効かねぇよ。」
「何か欲しい物はないか?」
「土方さん、お粥出来ましたよ。」
「悪いな、総司。」
「あ~あ、こんなにやつれちゃって・・鬼副長が台無しですよ。」
「うるせぇよ・・」
そう総司に憎まれ口を叩きながらも、歳三は粥を平らげた。
「俺が代わってやれたらなぁ・・」
「大丈夫だ、寝ていれば少しはマシになる。」
「そうか・・」
副長室から出た勇と総司は、中から聞こえてくる歳三の咳を聞きながら、同時に溜息を吐いた。
「近藤さん、どうしたんですか?」
「いや、こういう事に関して何も出来ないのは歯痒いと思ってなぁ。」
「こればかりは、何も出来ないですからねぇ。」
二人がそんな事を話していると、そこへ原田が通りかかった。
「二人共、溜息なんて吐いてどうしたんだ?」
「土方さんの体調が良くなくてね。どうすればいいのかなって話していたところなんだよね。」
「そうか。まぁ、こういう所だと、そういう話は疎くなるのは当然だよなぁ。」
原田はそう言うと、少し唸った。
「そういや、八百屋の店先でこんなものを見つけてよ。夏みかんっていってな、これだったら土方さんが食べられるんじゃないかと思って買って来たんだが・・」
「左之さん、ありがとう!今からこれを厨で切って来るよ!」
「役に立って良かったよ。それにしても、土方さんどこが悪いんだ?」
「いやぁ・・トシの体調が悪いのは悪いんだが、病じゃないのが・・」
「・・そうか、あんたが言いたい事はわかったよ、近藤さん。」
原田はそう言うと、巡察に向かった。
朝からうだるような暑さは、夜になると少し和らいだ。
「土方さん、どうぞ。」
「おぅ、済まねぇな。」
「どうです、今日は左之さんが夏みかんってやつを買って来てくれたんで、お粥にすりおろして入れてみました。」
「うめぇな、これなら食べられる。」
「そうですか、それは良かった。」
穏やかな日々をこのまま出産まで過ごせると、歳三は普通に思っていた。
だが―
「メース(※オランダ語で師匠のこと)、早く来てください!」
「そんなに急かすな!」
夏の暑さも少し和らぎ始めた頃、総司から歳三が突然喀血したという文を受け取り、松本法眼とその弟子である南部医師は大坂から京の新選組屯所へとやって来た。
「土方、大丈夫か!?」
「松本法眼・・よく来て下さいました。」
歳三はそう言った後、激しく咳込んだ。
「いつからそんな咳が出るようになった?」
「七日前からです。」
「そうか。じゃぁちょっと診るぜ。」
「お願い致します・・」
副長室で診察を終えた松本法眼は、暗い表情を浮かべていた。
「松本殿、トシは・・」
「残念だが、腹の子は諦めた方がいい。」
「そんなに深刻な病なのですか、トシは?」
「あいつの病は軽いが、腹の子は助からねぇ。」
「トシは、その事を聞いて・・」
「腹の子と己の命、どちらかを選べと言って来た。」
松本法眼は、そう言って勇の肩を叩いた後、屯所から去っていった。
「トシ、しっかりしろ!」
「勝っちゃん、俺はまだ、死なねぇよ・・」
「トシ、トシ~!」
勇の手を握った後、歳三は意識を失った。
どこからか、赤子の泣き声が聞こえた。
―何処だ、何処に居る?
歳三は薄闇の中、必死に赤子の姿を探したが、声はすれども、赤子の姿は一向に見えなかった。
やがて歳三の前に、赤子を抱く一人の女の姿が現れた。
『あなたの子は、あなたと会えるその日まで、わたしがこの子を預かっています。』
青い着物姿の女は、歳三が五歳の時に死別した母だった。
―俺はこいつを・・
『あなたにはまだ、やるべき事が、なすべき事があります。さぁ、戻りなさい、あなたが居るべき所へ。』
―母上・・
『わたしはあなたと一緒に居られる時間は長くなかったけれど、わたしはいつも、あなたの事を見守っていますよ。』
歳三の母・恵津は、そう言って歳三に優しく微笑むと、そっと彼の背を押した。
「・・トシ、良かった!目が覚めたんだな!?」
「勝っちゃん、ただいま・・」
歳三はそっと、何も宿っていない下腹を擦った。
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