「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「キルシャ様、例の件ですが・・」
「妾が許す。異教徒共を存分に蹴散らすが良い。」
「全てキルシャ様のおおせのままに・・」
「そなた達の働き、期待しておるぞ。」
キルシャはそう言うと、司祭達の健闘を祈った。
「異教徒達は見つけ次第、躊躇わずに殺せ!女子供も関係なくだ!」
「きゃぁぁ~!」
「逃がすな、追え!」
「まだ息がある奴は生け捕りにしろ!奴隷としてキルシャ様に献上するのだ!」
タハルークの郊外にあるエルシャハ教の信徒の町・エウリーケは、キルシャの軍の侵攻により、一夜にしてその美しい街並みは灰燼に帰した。
信徒達は女子供含めて容赦なく殺され、かろうじて生き残った者達は奴隷としてキルシャに献上された。
「神よ、どうかお助けを・・」
そう言いながら祈る女の胸を、敵兵の槍が貫いた。
「おいおい、殺すなよ。生け捕りにした後、楽しもうと思っていたのによ。」
「ははっ、そうだったな。」
兵士の一人が、そう言いながら女の身体を爪先で蹴った。
するとかすかに、女が呻き声を上げた。
「・・れろ。」
「え?」
「呪われろ、悪魔め!」
女はそう叫んで兵士に唾を吐きかけると、絶命した。
「行くぞ、死人には用はない。」
「へいへい、わかりました。」
殺戮の嵐が吹き荒れたエウリーケから三キロ先にある遊牧民の集落で、千景達一行は彼らから歓待を受けていた。
『こんな辺境の地にまで来て下さり、ありがとうございます。』
『いいえ、こちらこそ。わたくし達にこんなご馳走を用意して下さり、ありがとうございます。』
『いいえ。伝説の“巫女姫”とお会い出来て嬉しい限りです!』
『え・・』
歳三が驚愕の表情を浮かべながらシュガ族の長老の顔を見ると、彼はニコニコと歳三に微笑んだ。
「おい、ちょっとツラ貸せ。」
「貴様、漸く俺との結婚に乗り気になってくれたのか、嬉しいぞ・・」
「いいから!」
「ふふ、いいだろう。」
千景は上機嫌で歳三の後を追うと、ゲル(家屋)から出た途端、彼から平手で頬を打たれた。
「てめぇ、長老達に何吹き込んだ?」
「貴様が伝説の“巫女姫”だと・・」
「おい、俺じゃねぇって言ってんだろうが!勝手に決めるな!」
「別にいいだろう。所詮“伝説”―嘘か真実かわからぬ。」
「だから、嘘を吐いてもいいと?」
「はは、そういう事になるな。」
「てめぇ、歯ぁ食い縛れ!」
『まぁ、顔をどうされたのです?』
『・・少しな。』
『巫女姫様なら、女達のゲルに居ますよ。』
『そうか。』
千景が女性達の居るゲルへと向かうと、その中から笑い声が聞こえて来た。
『まぁ、見事な刺繍!』
『こんなものがさせるなんて、うらやましいわ!』
千景がそっとゲルの中を覗き込むと、中では刺繍をしている歳三の周りを女性達が囲んで何やら話し込んでいた。
「どうした?」
「いや、俺の村に伝わる文様を刺繍していたら、みんな驚いて・・」
『鳳凰なんて、この国の刺繍にはないもの!』
『へぇ、そうなのか。』
「それは?」
『さぁ・・昔から知っている模様なんだ。何故だかわからないけれど・・』
そう言って歳三は、左三つ巴の紋を刺繍した。
「まだ、やっているのか?」
その日の夜、歳三が刺繍をしていると、寝室に千景が入って来た。
「あと少しで完成するから・・」
「何をやっている?」
「あぁ、これはシュガ族の婚礼衣裳だ。紺藍色の花嫁衣裳なんて、珍しいな。」
「そうだな。」
「さてと、もう寝るか。」
歳三はそう言うと、針を針箱の中にしまい、そのまま寝床に入って眠った。
『まぁ、綺麗!』
『美しいわ!』
シュガ族の長老の孫娘の婚礼に、歳三は招かれた。
彼が縫った婚礼衣裳を纏った長老の孫娘・アユラは婚礼の後こう言って歳三に抱き着いた。
『ありがとう、トシ!』
『それにしても見事だわ。一度見ただけですぐに縫えるなんて。』
『いや、いつもやっている事ですから・・』
『普通こんな事が出来る人はそうそういないわ!』
婚礼の後、三日三晩宴が開かれた。
幸せそうな新郎新婦の宴を見ながら、歳三は新婦の姿に亡くなった娘の姿を重ね合わせていた。
娘も、生きていればあんな風に・・
「おい、どうした?」
「少し、外の風に当たってくる。」
歳三はそう言うと、ゲルから外へと出た。
冷たい冬の風を感じながら、娘を亡くした悲しみで胸が押し潰されそうだった。
「ララ・・」
暫く外で物思いに耽った後、歳三がゲルの中へと戻ろうとすると、背後から狼のような遠吠えが聞こえた。
(狼・・)
この時期になると、羊を狙って狼が棲家である山から降りてくると、シュガ族の女達から聞いた。
―おかあさん、狼はこわくない?
―こわくないわよ。狼は、人間の言葉がわかるの。だから、もし狼に会ったら、その時は・・
キラリと闇の中で蒼い瞳が光ったかと思うと、一匹の狼が歳三の前に現れた。
―こわがらずに、ちゃんと挨拶するのよ、いい?
―おかあさん、わかった!
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