「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
(何だ、今の・・)
突然脳裏に浮かんで来た“記憶”に歳三が戸惑っていると、蒼い瞳の狼が、彼の元に近づいて来た。
“姫様・・”
「お前、話せるのか?」
“お久しゅうございます、姫様。”
狼はそう言うと、歳三に己の鼻を擦りつけた。
「歳三、そいつから離れろ!」
「千景、誤解だ!こいつは味方だ!」
「そうか・・」
千景は暫く歳三と狼を交互に見つめたが、彼は何も言わずにその場から立ち去った。
「まぁ、巫女姫様、その狼は?」
「こいつは俺の味方だ。」
「そうですか。」
アユラの侍女はそう言って不安そうに狼を見ると、ゲルの中へと入っていった。
“俺は、嫌われているのか?”
狼は、悲しそうな顔をした後、クゥンと鳴いた。
「シュガ族にとって家畜は財産そのものだから、お前達は天敵なんだ、理解してくれ。」
“わかった・・”
狼はそう言うと、項垂れた。
その後、歳三は狼をゲルの中に決して入れないというシュガ族の掟を守った上で、狼と旅をする事を許して貰った。
「そろそろ、アズールだ。」
「そうか。」
「これを被っていろ、貴様の髪は俺の母国では目立つ。」
「わかった。」
神羅国とアズールの国境の町・カシュクールは、貿易で栄え、近くの市場では様々な国の品々が売られていた。
「うわぁ、凄ぇな・・」
「ひとつ位、何か貰ってやろうか?」
「いいって!」
「遠慮するな。お前は俺の妃となるのだから、金の装身具のひとつ位買ってやる。」
「だがな・・」
「さぁ、好きな物を選べ。」
「やっぱり、いい。」
今まで山村に住んでいて、華やかな世界とは無縁だった。
だから、目の前に広がっている華やかな装身具を見て、少し戸惑っていた。
「仕方無いな、俺が選んでやろう。」
千景はそう言って溜息を吐いた後、エメラルドの耳飾りを購入した。
「本当に、いいって・・」
「お前の黒髪によく映えるな。」
「そうか?」
「これからは、もっと俺に甘えろ。」
「わかった・・」
市場を出た二人は、繁華街の中にある宿へと向かった。
「ここならば、人目があって、“あいつら”は迂闊にお前を攫えまい。」
「“あいつら”って?」
「キルシャ・・アズールの第三王妃にして、俺の宿敵だ。」
そう呟いた千景の紅い瞳が、怒りで滾るのを歳三は見た。
「あいつは・・俺の母を殺したのだ。」
千景の母は、身分は低かったが、元は貴族の娘であった。
彼女がアズール国王と懇意になり、後宮入りしたのは、彼女の父親、即ち千景の祖父が国王の友人だったからであり、後宮入りした時点で既に彼女はその腹に千景を宿していた。
千景は王子であったが、六番目の王子であったが為に、王位継承権から遠い場所に居た。
だが千景は己の才覚だけで国王の側近となった。
しかし、千景の存在を恐れたキルシャは、彼の母を毒殺した。
「母は、あの女に殺され、その死体は何処かに捨てられた。」
「そんな事が・・」
「大切な者を失うのはもう沢山だ。それはお前も同じだろう?」
「・・あぁ。」
そう言った歳三の脳裏に、ララと勇の笑顔が浮かんだ。
カシュクールを出た一行は、王都へと続く南の街道へと向かった。
「あちぃ・・」
一年の大半を雪と氷で覆われ、夏でも涼しい気候であった故郷と比べ、女神大陸の南西に位置するアズールは、亜熱帯気候であり、夏は高温多湿である事が知られている。
「千景様、少し休みましょう。このままでは我々も馬も持ちません。」
「そうだな・・」
街道の途中にある森の中で千景達は休憩する事にした。
「歳三様、どちらへ?」
「水浴びだ。こんなに暑いと汗で肌が張りついて気持ち悪い。」
「そうですか・・」
歳三は蒼い瞳の狼を連れ、森の中にある湖へ水浴びをしに行った。
湖の奥には小さな滝があり、熱気に包まれている街道より、森の中は若干涼しかった。
「ふぅ~、生き返ったぜ。」
歳三がそんな事を呟きながら水浴びを楽しんでいると、そこへ一人の女がやって来た。
髪は輝くようなブロンドで、右手首には蛇を象ったルビーの腕輪をはめていた。
彼女の身体は華奢ではあったが、自分と同じように腹は六つに割れていた。
(何だ、この女・・)
「そなたが、巫女姫か?」
「誰だ、てめぇ?」
「妾はキルシャ、そなたを捜しておったのだ。」
「キルシャ、だと・・」
その名は、つい先程千景の口から聞かされて来た名ではなかったか。
「俺に何か用か?」
「妾と共に来て貰うぞ。」
「嫌だと言ったら?」
「そなたに拒否権はない、諦めるのだな。」
「・・あぁ、わかったよ。」
歳三がキルシャと共に湖から上がると、湖畔には武装した兵士達に取り囲まれた千景達の姿があった。
「暴れるでないぞ。」
キルシャはそう言った後、千景の方へと向き直った。
「久しいのう・・孺子(こぞう)。」
「目尻に皺が目立つようになったな、キルシャ。」
「この者達を縛り上げよ!」
「はっ!」
歳三達は兵士達に拘束されながら、キルシャと共に王都へと向かった。
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