「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
カタン、カタンと、規則的な機織りの音が聞こえて来た。
歳三が王宮の後宮に入ってから、数日が過ぎた。
エミヤの死と、国王が病に臥した事により、この季節に行われる筈だった祭りは中止となった。
「あ~あ、嫌になっちゃうわ。祭りに向けて一年間もこうして準備してきた物が全て無駄になるなんて!」
「一体キルシャ様は何を企んで・・」
「しっ、聞こえているわよ!」
歳三は女官達の話を聞きながら、キルシャが周囲から恐れられている事に気づいた。
「なぁ、あの女は、どうして恐れられているんだ?」
「キルシャの事か?あの女は、自分以外の者は敵だと思っているようだ。無理もない、家族を殺され、寄る辺ない身の上だったから・・」
「その話、詳しく聞かせてくれ。」
その日の夜、千景から聞いたキルシャの半生は壮絶なものだった。
キルシャは、カシュクールの豪商の家に生まれた。
彼女が七歳の時、彼女の家に盗賊が入り、彼女の家族は皆殺しにされた。
キルシャは奴隷商人に売り飛ばされ、アズール各地の売春宿へと売り飛ばされた。
「あの女は、己以外頼る者が居なかったのだろう。その所為で、あのような苛烈な性格になってしまったのだろう。」
「へぇ・・」
「今夜はもう遅いから、休め。」
「あぁ、わかった・・」
歳三が眠ったのを確認した千景は、そっと彼の部屋から出た。
「千景様・・」
「お前は、確かエミヤ様の侍女だな?俺に、何の用だ?」
「巫女姫様に、これを必ずお渡し下さいませ。」
エミヤの侍女は、そう言うと千景に“ある物”を手渡した。
「わかった、必ず渡そう。」
「ありがとうございます!」
彼女が息を弾ませながら廊下を曲がると、その先にはキルシャの姿があった。
「先程あの孺子に何を渡したのだ?」
「わ、わたくしは何も・・」
「痛い目に遭いたくなければ答えよ。」
「わたくしは何も渡しておりません!」
「そうか。妾の気が変わらぬうちに消えるがよい。」
「ひ、ひぃぃっ!」
エミヤの侍女から渡された物は、小さな袋だった。
千景が中身を確めようと袋を逆さにした時、中から小さな耳飾りが出て来た。
それには、誰かの血がついていた。
「ん・・」
歳三が目を開けると、そこは故郷の村だった。
(何で、ここに・・)
「おや、帰って来たんだねぇ。」
背後から声がしたので振り向くと、そこには頭を半分斧で割られた姑が立っていた。
「さっきから頭が痛くて堪らないんだよ、何とかしておくれぇ。」
「ひぃっ!」
「お前が殺した癖に。」
「人殺し。」
歳三が悪夢から目を覚ますと、虫の声が風に乗って聞こえて来た。
(あの夢は、一体・・)
「歳三、居るか?」
「どうした、こんな時間に?」
「この耳飾りに見覚えはあるか?」
「いや。わざわざこれを見せに、夜中に俺に会いに来たのか?」
「それもあるが、夜這いに来た。」
「ハァッ!?」
「抱かせろ。」
「うるせぇ~!」
翌朝、顔に赤い手形がついた千景の姿は、王宮内でちょっとした噂になった。
「これは、何を織っているんだ?」
「これは、豹の織物ですわ。この国では、豹を守護神として崇めているんですよ。」
「へぇ・・」
王宮内にある機織り工房を見学していた歳三は、そう言うと美しい豹柄の織物を見た。
「巫女姫様、いよいよ儀式の日ですわね。」
「は、儀式?」
「まぁ、ご存知なかったのですか?」
「巫女姫様、実は・・」
エミヤの魂の冥福を祈る為、数日後歳三が死者へ捧げる舞を舞う事になっているのだと、歳三は女官達から初めて聞いた。
「はぁ、聞いてねぇぞそんなの!」
「そうでしょうね。」
「わたくし達も、つい先程聞きましたの。」
「あいつは・・千景は何処に行った?」
「千景様なら、先程お出掛けになられました。」
「何処に?」
「それが、“巫女姫様には教えるな”と・・」
「はぁぁぁ~!」
歳三の怒声が王宮内を震わせている頃、千景は変装して歓楽街に居た。
「あらぁお兄さん、良い男ねぇ。」
「わたし達と一緒に遊ばなぁい?」
周りを警戒しながら見渡している千景に、華やかな衣装を纏った女達が寄って来た。
彼女達は皆、この街の”夜の華“だ。
「この耳飾りの事を、誰か知っている者は居るか?」
「あぁ、それはラーラの物よ!」
「ラーラ、だと?」
「向こうの路地にね、“百合”っていう店があるの。」
「ラーラは、どんな娘だ?」
「そうねぇ、あの子左肩に龍の刺青があったわ。」
「ありがとう。」
「また来てね~!」
娼婦達に金貨が入った袋を渡した千景は、耳飾りの主に会いに行った。
「あら、まだお店は開いていないわよ。」
「ラーラは居るか?左肩に龍の刺青がある娘だ。」
「その子なら、辞めちまったよ。」
「その娘の消息は?」
「知る筈ないだろ。商売の邪魔をするのなら、出て行っておくれ。」
「邪魔したな。」
(解せぬな・・)
エミヤの侍女は一体自分に何を伝えようとしていたのか―そんな事を考えながら王宮に戻った千景を待っていたのは、歳三の拳だった。
「何のつもりだ、貴様・・」
「それはこっちの台詞だ、歯ぁ食い縛れ!」
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