画像は
湯弐様からお借りしました。
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
「ここ、か・・」
エディンバラを発ってから、ジェフリーが海斗の居場所を突き止めたのは、彼がロンドンに着いて約一週間後の事だった。
ロンドンのイースト=エンド、貧民街の近くに、その孤児院“天使の家”はあった。
その孤児院は、元は美しい白亜の建物だったが、経年劣化の所為か、近くにある工場から出る煙の所為なのかはわからないが、灰色に汚れていた。
ジェフリーが通りの向こうから孤児院の中を覗くと、そこから一人の老婦人が出て来た。
「すいません、マダム、あなたはこの孤児院の方ですか?」
「はい。わたくしはこの孤児院の院長をしております、ナオミと申します。あなたは?」
「わたしはジェフリー=ロックフォードと申します。実は・・」
「カイトを捜しに来たのでしょう?あの子なら、厨房の掃除をしておりますわ。」
「ありがとうございます。」
孤児院の中は、床や壁が鏡代わりに使える程、美しく磨き上げられていた。
厨房では、麻の粗末なワンピース姿の海斗が、レモンの果汁を染み込ませた布巾で頑固にコンロにこびりついている油汚れを拭き取っていた。
「カイト。」
「あなたは・・」
海斗は髪についた埃を手で払うと、ジェフリーを見つめた。
「俺がここに来たのは、あなたのお義姉様からネックレスの件で・・」
「そうですか。あの人に伝えて下さい、あのネックレスは質屋へ売ってしまったと。」
「質屋に?どうしてそんな・・」
「孤児院を救う為です。俺がここに来た時、孤児院の食事や衛生面は最悪でした。その状況を少しでも改善しようと思って、あのネックレスを売りました。」
海斗はそう言った後、一枚のメモをジェフリーに手渡した。
「ネックレスを売った質屋の住所です。」
「君は、いつまでここに居るつもりなんだ?」
「俺はもう、あの家には戻りません。」
「そうですか・・」
ジェフリーが厨房から出て行こうとすると、そこへ孤児院の前で会った老婦人が入って来た。
「カイト、そろそろお茶の時間よ。ジェフリーさんもご一緒にいかがかしら?」
「はい、喜んで。」
「自己紹介が遅れましたわね。わたくしはカイトの祖母の、ナオミです。さっきは黙っていてごめんなさいね。」
「お祖母様、厨房は掃除中ですから、ここでお茶は・・」
「着替えていらっしゃい、カイト。あなたが持っている一番上等なよそ行きのドレスにね。」
「はい。」
海斗は麻のワンピースから、旅行鞄の中にしまっていた美しい薔薇色のドレスに着替えた。
「お待たせ致しました。」
「それじゃぁ、行きましょうか。」
ナオミが海斗とジェフリーを連れて行ったのは、ウェスト=エンドにあるカフェだった。
「いらっしゃいませ。」
海斗達がカフェに入ると、ウェイターが恭しく彼らを迎えた。
「お祖母様・・」
「堂々としていなさい。」
周囲の冷たい視線を浴びて海斗が怯えていると、ナオミはそう言って彼女を励ました。
「カイト、ここのアップルパイは美味しいのよ。」
「じゃぁ、それで。」
「そうだな。レモンタルトを頂こうか。」
三人がカフェで楽しいひと時を過ごしていると、そこへエリザベスが友人達と共に店へと入って来た。
「カイト、よくもわたくしのネックレスを盗んだわね!」
「あれはあなたの物ではなく、俺の亡くなった母の形見でした。それをあなたが・・」
「お黙り!」
エリザベスは海斗の言葉を途中で遮ると、彼女の頬を平手で打った。
「エリザベス、あなたとはもう終わりにしたい。」
「ジェフリー様、どうしてそんな急に・・」
「やはり、あなたは嘘を吐いていたのですね。カイトの母親の形見を、あなたは盗んで自分の物にした。それを・・」
「あのネックレスは、わたくしに似合う物だから・・」
ジェフリーに突然別れを切り出され、エリザベスはカフェに響き渡るような声でそう叫んだ後顔を蒼褪めて口を閉じたが、遅かった。
「あ・・」
「では、あなたの本性がわかったところで、後日あなたとの婚約破棄の旨を認めた手紙をハーリントン家に送ります。」
「嫌よ!」
「お客様、これ以上騒がれると他のお客様のご迷惑になりますので・・」
今にも失神しそうになっているエリザベスを、彼女の友人達が支え、周囲の客達に謝りながら店から出て行った。
「さてと、わたくし達も失礼しようかしら。」
「お客様は、居て下さって大丈夫です。」
エリザベスが出て行った後、カフェはエリザベス達が来る前と同じ静寂な空気に包まれた。
「お客様、こちらをどうぞ。」
「あら、頼んでいないわよ?」
「いつもお客様には良くして頂いているので、うちのカフェのアップルパイとパンを特別にサービス致します。」
「まぁ、ありがとう。」
「またのお越しを、お待ち申し上げております。」
ナオミはカフェから出ると、アップルパイとパンが入った籘製のバスケットを大切そうに抱えながら、海斗達と共に孤児院へと戻った。
「みんな、戻ったわよ!」
「お帰りなさい、マザー!それは、何ですか?」
「みんなで頂くアップルパイよ。さぁ、お茶にしましょう!」
「はい、マザー!」
エリザベスがカフェで起こした騒動は瞬く間に社交界に広がり、ジェフリーに婚約破棄された彼女は暫く自室に引き籠もったまま出て来なかった。
にほんブログ村