柚聖は頼人と梓之介とともに、土御門家の分家・吉保家へと向かった。
「お帰りなさいませ、梓之介様。」
彼らが寝殿に入ると、使用人達が一斉に彼らを出迎えた。
「父上は?」
「寝殿にてお待ちしております、どうぞこちらへ。」
「わかった。」
頼人は梓之介とともに使用人の後に続いた。
「叔父様・・」
柚聖は初めて訪れた分家に漂う険悪な空気を感じ取り、恐怖のあまり頼人の手を握った。
「大丈夫だ、柚聖。」
頼人は甥を励ますかのように、彼の手を強く握り返した。
「大殿様、頼人様と柚聖様がお着きになりました。」
「そうか、通せ。」
頼人と柚聖は吉保家当主・嘉章と対面した。
「頼人殿、本日はこちらまでご足労いただき、かたじけない。」
嘉章はそう言って2人に頭を下げた。
「早速本題に入らせていただくが、何やらこちらで柚聖のことでよからぬ噂が広まってるとか。」
頼人がちらりと嘉章を見ると、彼は気まずそうに俯いた。
「あの鬼姫の乱以降、主上から柚聖様に目を光らせておけと命じられておりまして・・」
「主上に?」
頼人の眦が少し上がり、扇を開いた。
「ええ。7年前、柚聖の兄君・有爾(まさちか)が主上によって奪われてしまったことはご存知でしょう?」
嘉章の言葉に、柚聖は耳を疑った。
「叔父様、有爾が僕の弟だって本当?」
「柚聖・・」
頼人は驚愕の表情を浮かべている甥を見た。
「ねぇ、本当なの?」
「ああ。」
柚聖は叔父が嘘を吐いているのではないかと思ったが、彼の瞳は曇っていない。
「だから女御様は、有爾と遊ぶなとおっしゃられたんだね?」
「それは違う。女御様は・・」
頼人は有爾の事を話そうとした時、騒がしい足音が聞こえたかと思うと、数人の男達が部屋に入って来た。
「お前達、控えよ!」
嘉章が男達に向かって怒鳴ったが、彼らはそれを無視して柚聖の手を掴んで外に連れて行こうとした。
「鬼の子め、ここで成敗してくれる!」
「穢れし魔物の子め!」
柚聖は男達の殴打や罵詈雑言に耐えながらも、叔父に助けを求めた。
「何をする、お前達! 柚聖から離れろ!」
頼人は男達から柚聖を救い出した。
「大丈夫か?」
「うん・・」
その夜、柚聖は昼間感じた恐怖に震えながら、頼人と同じ部屋で寝た。
「あの人達、僕の事が嫌いだったの?」
「お前の事を誤解しているんだろう。奴らのことは気にするな。」
頼人はそう言って柚聖の髪を梳いた。
「何だか僕、疲れちゃった。」
「ゆっくりお休み。」
暫くすると柚聖は頼人の腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。
頼人はそんな彼の寝顔を見た後、ゆっくりと眠りに就いた。
魔除けの結界が反応し、2人がいる部屋に火花が散っているが、頼人はそれに気づきもせずに眠り続けている。
「そなたの宝を、貰い受けるぞ。」
頼人が抱いている柚聖の身体を抱きあげると、男は部屋から出て行った。
翌朝、頼人が目を覚ますと、柚聖の姿がなかった。
「頼人様、どうかなさったのですか?」
「柚聖が・・魔物に攫われた!」
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