「皆さん、お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした。僕達はこれで失礼致します。」
そう言って理恵子の夫・忠(ただし)は歳三達に向かって頭を下げると、理恵子の肩を抱いて土方家を後にした。
医師から妊娠を告げられた理恵子は、夫と離縁せずに彼とやり直すことを決めた。
「まったく、どうなってるんだか・・さっきまで、別れる、別れないで揉めてたってのに・・」
「夫婦の問題なんざ、ガキのお前ぇらにはまだわかりゃしねぇよ。まぁ、これで一件落着って感じだな。」
「そうだねぇ。でも、あたしはまた理恵子があのお姑さんと衝突するんじゃないかって、心配でねぇ・・」
「理恵子の旦那、家から出て自分の店を出すって言っていたぜ。」
「そうかい。でもねぇ・・」
「育実、理恵子の旦那の事を信じてやれよ。義理とはいえ、お前ぇにとっては息子には違いねぇんだから。」
「わかったよ・・歳ちゃんの言う通りにするよ。」
「邪魔したな。」
「また来ておくれよ。」
「お帰りなさいませ、歳三様、千尋様。トシちゃん、洋裁学校から書類が届いているわよ。」
「ありがとうございます、信子さん。」
帰宅した利尋は信子から洋裁学校の書類が入っている封筒を受け取ると、すぐさまペーパーナイフで封筒の封を開けた。
中には、入学試験の日時と会場の場所が書かれてある書類が入っていた。
「今週の土曜日か。利尋、頑張れよ。」
「はい、お父様。」
土曜日の朝、西田家を出た利尋は、洋裁学校の入学試験を受ける為、試験会場がある銀座へと向かった。
「ねぇ、あなたも試験を受けるの?」
「ええ・・」
「そう、お互い頑張りましょうね。わたし、石田清美。」
「土方利尋です。」
入学試験は小論文と面接試験があり、小論文を書き終えた利尋達は受験番号順に面接試験会場へと呼ばれた。
「土方さん、いらっしゃいますか?」
「は、はい!」
利尋が緊張した面持ちで面接会場へと入ると、そこには二人の外国人教師と、校長と思しき老婦人が長椅子に座っていた。
「どうぞ、お掛け下さい。」
「し、失礼致します。土方利尋と申します。本日は・・」
「緊張なさらなくて結構よ。あなたは、どうしてうちの学校に入学したいと思ったの?」
「わたしは、本格的に洋裁を学びたいと思い、貴校を選びました。」
「あなたは洋裁の経験がありますか?」
「はい、米兵の家で家政夫をしていた時、そのお宅の奥様のワンピースを作りました。洋裁は独学で学びましたが、もっと本格的に学ぼうと・・」
「もういいわ、結構よ。」
「あの、わたし・・」
「結果は後日、お知らせ致します。」
「し、失礼致します。」
二週間後、西田家に洋裁学校から利尋宛の書類が届いた。
「どうだったの?」
「合格してた・・」
利尋はそう言うと、震える手で歳三達に合格通知書を見せた。
“土方利尋様、本校の入学を許可致します。”
「おめでとう利尋、良かったわね!」
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