「待て、泥棒!」
千尋が自分のネックレスを盗んだ少年達を追いかけていると、彼女は一人の男にぶつかった。
「すいません、大丈夫ですか?」
「どうかなさったのですか、そんなに慌てて?」
「さっき、あの子達に大切なネックレスを盗まれてしまって・・」
「そのネックレスというのは、これですか?」
カソックを着た男は、そう言うと千尋にネックレスを差し出した。
「有難うございます。あなたは・・」
「わたしは、町はずれの孤児院を経営しております、グスタフと申します。」
「どうして、あなたが俺のネックレスを?」
「あの子達は、わたしの孤児院に居る子なのですよ。どうかあの子達を、わたしに免じて許してやってくださいませんか?」
グスタフがそう言って千尋を見たとき、歳三が彼女の元へと駆け寄って来た。
「千尋、どうした?」
「わたしの孤児院に居る子供達が、こちらの方の大事なネックレスを盗んでしまいまして・・どうか、わたしに免じて許してやってくださいませんか?」
「それは出来ねぇな。人の上に立つ人間なら、善悪の判断を子供達に教えることが大事なんじゃねぇのか?」
「わかりました。子供達には後で厳しく言っておきます。」
グスタフは千尋にネックレスを渡すと、そのまま二人の元から去っていった。
「あらお二人とも、こちらにいらしたのね!」
「帰りが遅いから、何かあったのかと思ったよ。」
クラウスはそう言うと、雑踏の中を歩いているグスタフを見た。
「あの人は・・」
「グスタフさん、知っている方ですか?」
「ああ。うちが毎年寄付をしている孤児院の院長だよ。さてと、日が暮れる前に山荘に行こうか。」
「はい。」
祭りの会場を後にし、クラウス達は再び山荘へと向かった。
「見えてきたわ、あれが我が家の山荘ですわ。」
「随分と立派なものだなぁ。」
山荘の前に立った歳三は、そう言うと蔦が絡んだ白亜の建物を見た。
中に入ると、吹き抜けのリビングルームから太陽の光が射し込んできた。
「何だかホテルみたいなところだなぁ。」
「わたしの父が色々と拘って建てたものなんだ。庭にはプールがあるし、裏には湖があるから、今の季節には泳げるよ。」
「チヒロさん、水着は持ってきていらっしゃるの?」
「ええ、まぁ・・」
「それじゃぁ、わたくしのお部屋で着替えましょうよ!」
レイチェルはそう言うと、千尋の手を掴んで二階へと向かった。
「あいつら、遅せぇなぁ・・」
「まぁ、ご婦人の身支度は色々と時間がかかるものだから、気長に待てばいいさ。」
リビングで歳三とクラウスがコーヒーを飲んでいると、二階から水色の水玉のビキニを着たレイチェルが降りてきた。
「お兄様、お待たせしました。」
「あれ、チヒロちゃんは?」
「チヒロさん、早くいらしてくださいな!」
レイチェルの背後に、黒いビキニを着た千尋が恥ずかしそうに俯きながら歳三達の前に現れた。
豊満な胸とくびれたウェストを露わにした千尋のビキニ姿を見て、歳三は飲んでいたコーヒーを噴き出そうになった。
「いやぁ、凄い似合っているじゃないか。」
「酷いわお兄様、わたくしのことも褒めてくださいな!」
千尋の事ばかり褒める兄に向かってレイチェルはそう言うと、頬を膨らませた。
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