ガブリエルが何者かに教会で拉致されたことを知ったアンヌは、宮廷から自宅に戻った。
「奥様、ガブリエル様が・・」
「捜索隊は?」
「先ほど出発しました。教会では司祭様とカロリーヌが矢で射殺されたそうじゃあありませんか・・なんと酷い・・」
そう言ってアンヌの乳母は恐怖で身を震わせた。
「男の人相はわかっているの?」
「それが・・目撃者2人は殺されていて、他の司祭達が教会に駆けつけた時はもうガブリエル様は連れ去られてしまった後だとかで・・」
「犯人はわたしの領地に集落を作って暮らしている忌々しいユグノーに違いないわ。犯人の目的は何であれ、彼らを始末するいい機会だわ・・」
アンヌは口端を上げてほくそ笑んだ。
「お母様、お姉様が拉致されたって本当?」
ジュリアーナが婚約者とともに広間に入って来た。
「お姉様の事は心配要りませんよ、ジュリアーナ。それよりもお前達の結婚式をどうするか決めなければね。」
アンヌはそう言って義理の息子となる黒衣に身を包んだ男を見た。
「ガブリエル様がご無事だといいですけれど・・」
ヴィクトリアスはアンヌを見ながら言った。
「あの子の事は心配ないわ。あなたはジュリアーナとは上手くいっているの?あの子よりもガブリエルと居る時間の方が長いんじゃなくて?」
「ジュリアーナさんとは余り話すことがなくて・・いつも仕事ばかりで恋愛下手なので・・」
「言い訳はいいわ。あなたももしよければ捜索隊に加わって頂戴。多分捜索は大がかりになるになるから。」
「どれ位、かかりますか?」
「日が暮れるまでよ。」
アンヌは窓の外を眺めながら言った。
先ほどまで晴れていた空は曇り、雪が降り始めていた。
ドルヴィエ家の捜索隊が邸を出た頃、ガブリエルを拉致した男が住む集落にある家の中で、ガブリエルはゆっくりと真紅の瞳を開いていた。
「ん・・」
急激な寒さを感じてガブリエルは家の窓から外を覗くと、広大なドルヴィエ家の領地を雪が白く染め上げていた。
「綺麗・・」
「雪よりもお前さんの方が綺麗だぜ、お姫様。」
背後から声がして振り向くと、教会で自分を拉致した男が品定めをするような目でガブリエルを見ていた。
「ここは何処ですか?わたくしをどうするおつもりですか?あなたはどなたですか?」
「俺はガリウス。ここは俺と仲間が住む集落さ。俺はお前を花嫁としてここへ連れてきた。」
「花嫁・・わたくしがあなたの花嫁ですって?戯言はおよしになって。わたくしはガブリエル
=ミレーヌ=マリアンナ=ドルヴィエです。あなたのような野蛮な方の妻には、決してなりませんわ!」
「どっかで見た顔だと思ったらやっぱりドルヴィエ家のお姫様か・・母親に似て気位が高い嫌な女だ。」
ガリウスはそう言ってガブリエルの顎を掴み、桜色の唇を荒々しく塞いだ。
「無礼者!」
乾いた音が部屋に響き、ガブリエルの平手打ちによって赤い手形を右頬に残したガリウスは、ジロリと彼女を見た。
「威勢がいいお姫様だ。これから手なずけるのが楽しみだぜ。」
彼は豪快に笑いながら部屋から出て行った。
(なんて失礼な方・・こんな所には長くは居られないわ・・)
ガブリエルは先ほど男が出て行った扉を開け、ドレスの裾を摘みながら白い雪の上を華奢な
足で歩き始めた。
(待っていてくださいね、お母様。すぐに帰ってお母様を安心させてあげますから。)
ガブリエルの美しいブロンドの髪に、雪が静かに降り注いでゆき、やがてそれは激しい吹雪となって彼女を襲った。
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Last updated
2013年05月18日 16時08分05秒
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