中学の同窓会がもうすぐだったかと、千尋はそう思いながらも携帯の電源を切った。
余り中学時代はいい思い出がなかった。
今ではそんなに酷くはないものの、中学の時はアトピー性皮膚炎に悩まされていた。
夏は汗を掻くことによってアトピーが悪化し、冬は乾燥する所為で一年中激しい痒みに苦しんでいた。
病の苦しみに加え、アトピーへの無理解とそれによるクラスメイト達からのいじめが原因で千尋は何度もリストカットをした。
両手首に残るリストカット痕は、未だに残っている。
だがそれを消すつもりはない。
いじめに苦しみ、乗り越えた過去があるからこそ、今がある。
だが自分をいじめた連中を一生許さない。
同窓会には一度も行っていない。
恐らく自分をいじめた連中は、自分のことを“いじめた”という認識すらないのだろう。
だから罪の意識などは持っていないと、千尋は思っている。
それがさっきの電話だ。
もう過去は振り返らないことに決めたのだ。
千尋はシャワーを浴び、ベッドに入って寝た。
翌朝、千尋が携帯の電源を入れた途端に鳴り響く着信音に目を覚ました。
『もしもし、千尋ちゃん?』
「沖田先輩?」
総司の声を聞き、千尋は目を開けた。
『あのさぁ、今日君非番でしょ?君んち今から遊びに行っていい?』
「ええ、構いませんが・・」
数分後、総司が部屋に訪ねてきた。
「お邪魔します。」
「すいません、大したものがなくて・・」
「ありがとう、朝ごはん今朝食べてないから助かったよ。」
総司はそう言うと、千尋が作ったスクランブルエッグを頬張った。
「どうですか?」
「美味しい!千尋ちゃんって料理できるんだねぇ。はーくんも上手だけど。たまに僕にお弁当作ってくれるよ。」
「そうなんですか。それでどうしてうちに?」
「それがねぇ、はーくん実家に帰っちゃっていないんだよ。一週間位で帰ってくると思うけど、その間ご飯どうしようかと思って。でもよかったぁ~、千尋ちゃんが料理上手で。」
「沖田先輩、ひとつお尋ねしたいことがあるんですけれど。」
「なぁに?」
「沖田先輩と斎藤先輩は、一緒に住んでおられるんですか?」
「うん、ルームシェアしてるよ。そっちの方が家賃安いし、何かと助かるし。寮とか入ろうとか最初思ったけどさぁ、色々と面倒な事多いし、あんまり詮索されるの嫌なんだよね。」
「そうなんですか・・」
「千尋ちゃんは口が固そうだから、特別に僕の秘密を教えてあげるね。耳貸して。」
総司はそう言って立ち上がると、千尋の耳元で何かを囁いた。
「いい、この事は絶対に誰にも話さないでね?」
「はい、解りました。」
千尋の言葉を聞いた総司は、彼に笑顔を浮かべた。
「良かった、千尋ちゃんに話して。こういうことには信用できる人間に話すのが一番だからね。」
総司が食べ終わった食器を洗っている時、千尋の携帯がまた鳴った。
「誰から?」
「知らない人からです。」
「ふぅん。じゃぁ僕が出てもいいよね?」
千尋が止める間もなく、総司の手が千尋の携帯に伸びたかと思うと、彼は通話ボタンを押した。
「もしもし、あんた誰って・・それはこっちの台詞だよ。朝っぱらから悪戯電話するなんて、相当暇なんだね。」
相手が反論する前に、総司は通話を切り上げた。
「すいません・・」
「いいよ、別に。さてと、この後何処か遊びに行かない?」
数時間後、千尋は総司に連れられてある場所へとやって来た。
にほんブログ村