総司が千尋を連れて行ったのは、ディズニーランドだった。
周りにはカップルや家族連れが多く、当然二人は目立っていた。
「ねぇ、最初何乗りたい?」
「いいえ、別に何も・・」
「ふぅん、じゃぁ僕が決めるね!」
総司はそう言って入り口で取った地図を広げると、ある場所を指した。
「絶叫系とか苦手?」
「いいえ。どちらかというと好きな方です。」
「それじゃ、行こうか!」
最初に二人が向かったのは、スペース・マウンテンだった。
「あ~、楽しかった。」
「そうですね。」
「じゃぁ次行こう!」
「え~!」
総司に手を引っ張られて千尋はトゥモローランドから、クリッタカントリーへと移動した。
「今日は暑いから、丁度いいかもね。」
「はい・・」
急流滑りのアトラクションに乗った後、二人は水浸しになりながらレストランへと向かった。
「ここ、美味しいんだってさ。何食べる?」
「じゃぁこれで。」
「わかった。」
店員に料理を注文し、総司は水を一口飲んだ後溜息を吐いた。
「千尋ちゃん、今朝の電話誰からだったの?」
「中学の同級生からです。多分、同窓会に出ろって話しだったんだと思います。」
千尋はそう言うと、俯いた。
「もしかして君、いじめられてたの?」
「沖田先輩、どうしてそんな事わかるんですか?」
「だって僕もそうだったから。今朝話したけど、僕戸籍がないんだよね。その事で“お化け”ってからかわれて散々いじめられたよ。」
「どうして、そんな・・」
「だって戸籍がないのって、死んじゃってる人だけでしょう?殴る蹴るとかの肉体的な暴力は全然なかったけど、小学校の5年間、クラスメイト全員からシカトされたよ。教室に僕が入ったらみんな話すのを止めて、暫くしたらまた話し出すの。勿論プリントも僕の分だけ飛ばして配るし、給食だってそう。あれは精神的にきつかったなぁ。」
飄々とした口調でそう言って笑う総司だったが、当時は死ぬほど辛かったに違いない。
「まぁでも、一度爆発して僕のことシカトしろって言った司令塔に“やき”入れたから、いじめは小6の夏休み前に終わったなぁ。それで他人をいじめてる奴は、タイマンで勝負できない卑怯な弱虫だってことに気づいたんだ。中学でも色々とからかわれたけどさ、もう吹っ切れちゃったよ。」
総司は告白を終えた後、千尋を見た。
「で?千尋ちゃんはどんないじめに遭ったの?」
「中学のとき、アトピーが酷くて・・その所為で“化け物”とか言われました。」
「でも今は綺麗じゃない。多分電話してきた奴らは千尋ちゃんがまだアトピーで家に引き籠ってると思い込んで、それをからかいのネタにしようと思ってるよ?そんな奴らからいつまでも逃げ続けるより、綺麗になって輝いている自分を見せ付けた方がいいよ。過去にいつまでも振り回されるなんて、馬鹿みたいじゃない?」
総司の言葉に、千尋はいままで自分が過去に囚われていたことに気づいた。
もう終わったことをいつまでもズルズルと引きずるなんて、馬鹿らしいことをしていた。
「そうですね。もうあの頃の自分とは違うって、あいつらに見せ付けてやります。」
「その意気だよ!」
数日後、千尋は中学の同窓会が開かれているホテルの宴会場へと向かった。
「なぁ、岡崎まだ来ねぇの?」
「酷い顔してんだから人前に出られないっしょ?」
「それもそうだよねぇ~」
自分のことをいじめていたグループがそう言って楽しげに笑っている姿を横目に見ながら、千尋はさっさと宴会場へと入っていった。
「お久しぶりです、先生。」
「あら、岡崎君じゃない。久しぶりね。」
元副担任の声で、いじめっ子達が一斉に千尋の方を振り向き、驚愕の表情を浮かべていた。
「今仕事何してるの?」
「看護師をしています。まぁ昔、辛い経験をしたのでそれを生かせる仕事をしたいなぁって。」
元いじめグループの方をちらちらと見ながら、千尋は笑顔で元副担任と暫く近況を話し合っていた。
その後、元担任と副担任から挨拶があり、生徒が一人ずつ近況報告と挨拶をすることになった。
やがて自分の番となり、千尋はマイクを握って自分の近況を一通り報告した後、こう挨拶した。
「いじめられた時誰も助けてくれなかったし、毎日死にたいと思ったけれど、大勢の馬鹿に人生狂わされるのが嫌で看護師になりました。患者さんと毎日接する度に、自分は生きていて良かったと思いました。いじめてる奴らは全く反省せずに同じ事を何度も繰り返しているのが可哀想ですが、俺にはどうすることもできないし、それで酷い目に遭ったとしても自業自得です。馬鹿は死ぬまで治りませんからね。」
千尋がそう言ってマイクから手を離そうとして辺りを見渡すと、元同級生達は一斉に俯いていた。
「あ、ひとつだけ言い忘れてました。これからあなた達のことは完全に忘れますから、困ったときだけ金の無心とかしないでくださいね。職場に来られても迷惑ですから、その時は即通報しますんで。じゃぁさようなら皆さん、お元気で。」
千尋はマイクを床に投げ捨てると、颯爽とその場から立ち去った。
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