(はぁ、何だか調子狂うなぁ・・)
布団に寝転がりながら、歳三は隣で陸と千尋が楽しそうに話している声を聞いて溜息を吐いた。
千尋が何かと自分達の住むアパートに来ては食事や陸の勉強を見てくれたりしている事は有り難いのだが、どうも調子が狂ってしまうのだ。
「お父さん、大丈夫なの?」
「ああ。どうした陸?」
「夜、千尋さんと三人で何か外で食べようよ。」
「わかったよ。」
その日の夕方、歳三は陸と千尋と三人で近くにあるファミレスへと向かった。
「お前は何食べたい?」
「別に僕、何でもいいよ。」
「おいおい、それじゃぁ決まらねぇだろう。」
陸は目玉焼きハンバーグ定食に決めたので、千尋はイタリアンチーズハンバーグ定食を、歳三はサーロインステーキ定食を店員に注文した。
「それにしても、こういう所に来るのは久しぶりだなぁ。」
「そうなんですか?わたしは時々来てます。」
「あんまり金がなくてな。それに、一人暮らしだから・・」
歳三はドリンクバーで注いだコーヒーを飲みながら、そう言って溜息を吐いた。
「今まで仕事ばかりで、家庭のことなんて全く顧みなかった。けど3年前の火事で仕事を失って・・死ぬ事ばかり考えてた。」
「土方さん・・」
歳三の手を、そっと千尋は握った。
今まで彼が自ら過去を話したことは一度もなかったが、こうして話してくれたということは、何か理由がある筈だ。
「あの火事で、親友も、俺の戦友だった愛馬も死んだ。俺に残ったのは、醜い火傷の痕だけ・・」
歳三はそっと、ケロイドの残る左腕をTシャツの上から擦った。
「これからは、息子の為に生きようと思う。だから、お前ぇにも助けてくれねぇか?」
「はい、喜んで。」
千尋がそう言って微笑むと、歳三は照れ臭そうな顔をした。
「陸君の様子はどうですか?」
「学校には元気で通ってるよ。友達も何人かできたようだしな。」
「そうですか、それは良かったですね。」
店員が歳三と千尋が注文した料理を運んできた。
「久しぶりに食う肉は美味いなぁ。」
「ええ、そうですね。それよりも陸君、戻って来ませんね。」
陸はトイレに行くと席を離れたきり、戻ってこなかった。
「少し様子を見て来ます。」
「済まねぇな。」
千尋が陸を探しに男子トイレへと入ると、そこに陸の姿はなかった。
陸の携帯に掛けると、店の裏口から着信音が鳴った。
「陸君?」
「千尋さん!」
千尋が裏口のドアを開けると、陸が怯えた顔をして彼に抱きついた。
「あ~あ、いい所を邪魔されたよ。」
裏口には、いかにも柄が悪そうな高校生たちがヘラヘラと笑いながら二人を見ていた。
「あなた達、陸君に何をしたんですか?」
「ただお金頂戴って言っただけ。あ、あんたでもいいから金くれよ。」
「お断りします。それ以上近づいたら警察呼びますよ!」
「へぇ~、やってみせろよ!」
彼らの中でリーダー格と思しき体格のいい高校生が一人千尋の前に出て来た。
「さっさと金寄越せよ!」
高校生が千尋の胸倉を掴んで殴って来たが、彼は怯まず高校生の向う脛(ずね)を勢いよく蹴り上げた。
「誰か来て下さい、強盗です!」
裏口から店員が駆けつけてきて、ほどなくして高校生達は警察に連行された。
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