「あ~あ、つまんないなぁ。」
「どうしたんだよ、総司。」
巡察の後、総司がそう言って溜息を吐いていると、藤堂平助が怪訝そうな顔で彼を見た。
「だって、一番いいところで土方さんに邪魔されてさぁ。それに石も投げられたし。ここ見てよ、こんなに腫れちゃって。」
総司は額に残る痣を指すと、また大仰な溜息を吐いた。
「いいじゃん、不逞浪士をやっつけたんだから。」
「良くないよ、だって・・」
「総司、後で俺の部屋に来い!」
平助と総司が話していると、歳三の怒声が廊下から聞こえた。
「まぁた土方さんから呼び出しだよ、嫌になっちゃう。」
「俺は知らねぇからな。」
総司はさっと立ち上がると、副長室へと向かった。
「てめぇ、丸腰の相手を斬るたぁどういう神経してんだ!?」
「ああ、あの子丸腰じゃありませんでしたよ。それにどうみても、浪士(あっち)側だし。斬っても何の罪にも問われませんよね?」
「てめぇ、ふざけんな!お前ぇに斬られた奴は子どもを庇って抜刀しなかったんだ!周りの状況くらい把握しやがれ!」
「そんなに上から目線に偉そうに言うの辞めて貰いませんか?あなたが陰険で策士だから隊士に煙たがられているんですよ!」
「総司、てめぇ・・」
歳三の白い手が拳を象るのを見て、総司は少し心が躍ったが、今ここで歳三とやり合うと後でまずくなると思ってやめた。
「話はもう終わりですか?それじゃぁ失礼します。」
「てめぇ、待ちやがれ!まだ話は・・」
歳三の怒声を聞きながら、総司はそそくさと副長室から出て行った。
最近歳三は総司と口論してばかりで、偏頭痛に見舞われる。
「土方さん、薬をお持ちしました。」
「悪ぃな斎藤。」
斎藤が部屋に入ると、歳三は偏頭痛で顔をしかめていた。
「横になられてはいかがですか?」
「そんな事出来たら、苦労はねぇよ。」
斎藤の手から薬と水が入った湯呑みを取ると、歳三は一気に薬を飲んだ。
「少しはマシになったぜ、ありがとな。」
「ええ。では俺はこれで失礼致します。」
斎藤は歳三に頭を下げると、副長室から出て行った。
歳三は溜息を吐きながら、眉間を指で揉んだ。
(最近総司の奴、妙に俺につっかかって来やがる・・)
総司とは江戸に居た頃、関係は良好そのもだったが、上洛してからは何処か彼は自分を敵視しているようだった。
「兄上、大丈夫ですか?」
「ああ。それよりも、あの子は?」
「無事でした。今晒しを替えますさかい。」
「わかった。」
真紀が痛みに顔を顰めながら起き上がると、あいりが素早く彼の上半身に巻かれていた晒しを解き始めた。
彼の白い背には、生々しい刀傷が残されていた。
「後ろ傷やなんて、こんな・・」
「俺はあの子を守っただけだ。気にすることはない。」
「へぇ・・」
あいりはそう言うと、涙を流した。
長州藩邸では、後ろ傷を負った真紀の陰口を、藩士達が叩いていた。
「ふん、やはり腑抜けじゃ。」
「あんな小僧に、桂さんが守れるわけがなか!」
高笑いする彼らの頭上に、突如冷水が浴びせられた。
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