裕也は暫く黙った後、華凛達にこう言った。
「・・実は、お腹の子の父親は、僕ではないんです。」
「ほな、誰の子や?ちゃんと言いよし!」
淑子は深夜の訪問者に対して苛立ちを隠そうともせずに、そう言って扇子で机の端を叩いた。
「それは、まだ言えません・・」
「長瀬はん、あんたこないな時間に訪ねてきて非常識と違うか?うちは和美のことでどうしても話があるいうからあんたを家に上げたんえ?それやのに、何も話せませんてそれはないやろう!」
「申し訳、ありません・・」
「あんたの顔なんて二度と見とうない、さっさと帰っておくれやす!」
「伯母さん、落ち着いて・・」
「あんたは黙りよし!」
淑子はそう言うと、裕也を家から追いたてた。
「すいません、伯母は興奮していて・・」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。」
裕也は華凛に頭を下げると、花見小路の角を曲がって消えていった。
「伯母さん・・」
「全く、和美は東京で何をしてたんや?あの子、妊娠してるて・・」
「今日はもう遅いから、もう寝ましょう。」
「そうやな。和美には明日、連絡するわ。」
「お休みなさい。」
華凛は淑子の部屋から出て自分の部屋へと向かうと、布団を敷いて横になった。
「伯母さん、おはようございます。」
「華凛ちゃん、おはよう・・」
翌朝、華凛が淑子の部屋に向かうと、彼女は携帯で和美と電話しているようだった。
「和美、あんた今何処に居るん!?」
『そんなの、あんたには関係ないでしょう!』
「昨夜、あんたと付き合うてるという方が来たえ。あんた、妊娠してるんやってな!」
通話口の向こうから、和美が息を呑む音が華凛にも聞こえた。
「もう電話で話すよりも、直接会って話す方がええわ!あんた、一度家に戻っておいで!」
『嫌よ、あたしは絶対に帰らないわ!』
「もしもし和美、もしもし!?」
淑子は舌打ちすると、携帯を閉じた。
「どうしたのですか?」
「全く、話にならへんわ。あの子は一体、東京で何を・・」
「落ち着いてください、伯母さん。」
「あの子を東京へやったのは間違いかもしれん。何でこないなことに・・」
「伯母さん・・」
どうにか華凛は淑子を落ち着かせ、真那美を連れて聖愛学園へと向かった。
「先生、おはようございます。」
「おはようございます。」
「先生、今日も真那美を宜しくお願い致します。」
「ええ。」
真那美が教室に入ると、仲良しの和子ちゃんが彼女の元へと駆け寄ってきた。
「真那美ちゃん、うちのクラスに転校生が来るんだって!」
「転校生?」
「東京からの子だって!女の子だといいなぁ~!」
「そうだねぇ~」
真那美が転校生の話を和子とそう話していると、担任教師が一人の少年を連れて教室へと入って来た。
「皆さん、今日から皆さんと一緒にお勉強することになった、鈴久彗(すずひさけい)君です。」
「鈴久彗です、宜しくお願いします。」
そう言った彗が顔を上げた時、真那美と目が合った。
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