彗の家庭教師・西田聡の連絡先を華凛は彗から聞き、事実を確認する為に彼の自宅に電話を掛けた。
『もしもし、西田でございますが・・』
「夜分遅くに申し訳ございません、ご子息の聡さんは、御在宅でいらっしゃいますか?」
『少々お待ち下さい。』
電話に出た西田の母親と思しき女性は、華凛の言葉を聞いて保留ボタンを押して息子を呼びに行ったのか、数分間「森のクマさん」が受話器から流れていた。
『もしもし、お電話代わりました、聡です。どちら様でしょうか?』
「夜分遅くに申し訳ございません、わたくし正英と申します。そちらにお電話をお掛けしたのは、鈴久彗君の事で、お話がありまして・・」
華凛は聡に、彗から聞いた話をそのまま話した。
すると、彼は彗が嘘を吐いていると言いだした。
『あの子はねぇ、少々ひねくれているところがありましてねぇ。愛情不足の所為か、嘘を吐いては人の気をひこうとしている子なんですよ。』
「じゃぁ、あの子の足にある青痣は、一体どう説明なさるおつもりなんですか?あれは、ただ単にぶつけて出来たというものではありませんが?」
『正英さん、あなたは彗君とどのようなご関係ですか?』
「あの子とわたしの姪は同級生でして・・」
『わたしはちゃんと仕事をしているつもりですよ?部外者の癖に、こちらを一方的に悪者扱いするのは止めていただきたいですね!』
一方的に聡から電話を切られ、華凛は溜息を吐いた。
「どうだった?」
「家庭教師の方は否認しています。彗君は人の気をひこうとして嘘を吐く子なんだって言ってました。」
「どちらが本当のことを言っているのか、わからないね。まぁ、密室で起きた事だし・・」
「監視カメラさえあれば、どちらが本当の事を言っているのかがわかるんですけど・・」
居間で槇と華凛がそう話していると、こたつの上に置いてあった華凛のスマホが鳴った。
「もしもし、正英です。」
『華凛さん、高史です。突然で申し訳ないのですが、明日ホテルグランヴィア京都のカフェで会いませんか?』
「はい、わかりました。何時に伺えば宜しいでしょうか?」
『午前中は予定が詰まっておりますので、13時にどうでしょうか?』
「わかりました、明日13時ですね。」
『では、明日。』
事務的な口調で高史はそう華凛に言うと、通話ボタンを押した。
彼はスマホをテーブルの上に置いた後、まだ濡れている髪を乾かしに浴室へと向かった。
ドライヤーで髪を乾かしながら、高史は数時間前に父と交わした会話の内容を思い出していた。
「暫くあいつに会っていないだろうから、会ってやれ。」
「わかったよ。でも、会議で忙しいから・・」
「仕事を口実にして、またあの子に会わないつもりか?お前には親の情というものがないのか!」
「会うって言っているじゃないか、しつこいな!」
翌日、華凛が高史との待ち合わせ場所へと向かうと、ダークスーツを着た彼は一足先にカフェに来ていて、スマホを弄っていた。
「高史さん、お待たせ致しました。」
「華凛さん、久しぶりだね。最後に会って・・7年くらい経つかな?」
「ええ。あの、お話というのは?」
「彗のことだ。あの子、君に家庭教師から暴力を振るわれていると言ったそうだね?」
「ええ。あの子の足には、誰かに抓(つね)られたかのような青痣が幾つも出来ていました。」
「お願いだから華凛さん、うちの問題に首を突っ込まないでくれないか?」
「どういう意味でしょうか?」
「言葉通りだ。」
華凛が思わず高史の顔を見ると、彼は苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
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Last updated
2013年09月13日 07時21分17秒
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