ローマ近郊の農村が昨晩謎の化け物による襲撃を受け、全滅したとの知らせを受けたルドルフは、部下達とともに現地へと向かった。
「・・何だ、これは?」
ルドルフの目の前に広がるのは、瓦礫の山と化した村人達の家だった。
「村人達は、一体何処へ?」
「それが・・恐らく、化け物に全員食われてしまったのではないかと・・」
そう言った警官は、ルドルフに背を向けて現場から立ち去った。
「化け物の正体は不明か・・」
「目撃者はなし・・」
ルドルフは何か化け物に関する手掛かりはないだろうかと、現場周辺を調べていると、彼は一軒の民家の軒下からロザリオを拾い上げた。
化け物に襲われる直前まで被害者が身に付けていたものなのかどうかはわからないが、十字架には被害者の血痕らしきものが付着していた。
「これは?」
「恐らく、被害者のものだろう。とんだ無駄足だったな、行くぞ。」
ルドルフがそう言って部下達とともに現場から立ち去ろうとした時、彼らの前にオーストリア=ハンガリー帝国の軍服を纏った男が現れた。
「ルドルフ皇太子様ですね?」
「ああ、そうだが・・」
「皇帝陛下から、至急ウィーンに戻って来るようにとのご命令でございます。」
「わかった・・」
ボローヌイの件で勝手に動いたルドルフの事を、父親は少し苦々しく思っているのだろうか。
それとも―
「またロンドンに戻る事になろうとはな。」
「ここが、あなた様が愛した街ですか?」
「ああ。グレゴリーよ、“あれ”はどうなっている?」
「ご心配には及びません。“あれ”は全て船底に運び込みました。」
ラスプーチンはレパードとともにニューヨーク行きの豪華客船“アトランティス号”に乗り込みながら、船底へと運んだ“あれ”に想いを馳せた。
彼らは今回の実験で大成功を収めた貴重なサンプル達だ。
アメリカに着いたら、ゆっくりと彼らには休養を取らせてやろう―ただし、彼らが船の中で暴れないという保障は出来ないが。
「海の向こうに、新大陸があるのだな・・」
「“新大陸”ですか・・かのコロンブスも、アメリカ大陸を発見した際にそう言ったそうですよ。彼はかの地で、莫大な黄金と奴隷を手土産に母国へと帰還しました。しかし時の女王イザベルは、それを喜ばなかった。何故だと思いますか?」
「さぁ、わからんな。女王は奴隷など望まなかったのだろうよ。」
「そうでしょうね。まぁ彼のお蔭で、我々もアメリカで大規模な実験が出来るのですから、彼には感謝しなくては。」
ラスプーチンはそう言葉を切ると、港で船に乗った家族に手を振る人々をデッキの上から眺めた。
誰もが、幸せそうな笑顔を浮かべている。
家族を持つ嬉しさ、それに伴う喜びや憧れといった感情を、ラスプーチンは何も抱いていなかった。
レパードと同様に、彼は自分だけを愛するナルシストだから。
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最終更新日
2013年10月22日 13時36分44秒
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