「セン、校長がお呼びだぞ。」
「わかった、すぐ行く。」
突然校長から呼び出された千尋は、一体自分が何か不味いことをしたのかと思いながら、校長室のドアをノックした。
「校長先生、荻野です。」
「入りたまえ。」
「失礼いたします。」
校長室の中に入った千尋は、ソファに座っている歳三の姿に気付いた。
「あの、俺に話とは何でしょうか?」
「まぁ荻野君、座りたまえ。」
「はい・・」
千尋が歳三の隣に腰を下ろすと、士官学校の校長・ネイサンは話を切り出した。
「二人を呼んだのは、今月末に開かれる音楽祭のことだ。」
「お言葉ですが校長先生、俺は音楽祭には出演しません。」
「人の話を最後まで聞き給え、荻野君。」
「すいません・・」
「さて、本題に戻るが・・音楽祭には荻野君と土方君の二人にぜひとも出演して貰いたい。」
「理由を聞かせていただきたいのですが・・」
「君が音楽室で弾き語りをしている動画を誰かが配信したらしくてねぇ。その動画を将軍自らがご覧になり、是非とも音楽祭に君と土方君に出演して欲しいという手紙が昨日届いたのだ。」
ネイサンの話を聞いた後、千尋は隣に座る歳三を見た。
「どうして、土方先輩が音楽祭に出演することになったのですか?」
「将軍自らのご指名なのだよ。土方君は将軍のご子息だからね。」
「土方先輩が、将軍閣下のご子息?」
千尋の言葉を聞いた歳三は、少しバツの悪そうな顔をして俯いた。
ネイサンは二人にそれぞれある台本を手渡した。
「これは?」
「音楽祭で君達が出演する劇だ。一度目を通したまえ。」
ネイサンから手渡された台本に目を通した千尋は、そのキャスト表を見て驚愕した。
『クリスティーヌ:荻野千尋 オペラ座の怪人:土方歳三』
「俺と土方先輩が、主役ですか?」
「音楽祭はこの学校の創設当時から続く伝統行事だ。この劇が失敗すると、君達だけの責任だけではなく、学校全体の責任なのだよ。」
「わかりました・・」
ネイサンから“必ず劇を成功させろ”というプレッシャーをかけられた千尋と歳三は、出演を断る事が出来なかった。
その日の夜、食堂で千尋が夕食を取っていると、そこへ同級生達がやって来た。
「セン、聞いたよ。劇に出るんだって?」
「それも、主役で!」
「俺はあんまりそういうのには出たくなかったんだけれど、校長先生直々のご命令だから、断れなかったんだ。」
「でも、主役なんて凄いよ!」
「相手役があの土方先輩だから、少し苦労すると思うけどなぁ。」
「どういう意味だ?」
「土方先輩は、結構スパルタだから。」
その言葉の意味を、千尋は稽古初日から知ることになった。
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