「PEACEMAKER鐵」二次創作です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
総司は森を抜けて休みなしに歩いた所為なのか、宿の部屋に着いた途端、そのままベッドに横になって眠ってしまった。
「ったく、しょうがねぇな。」
歳三は溜息を吐きながら総司の身体に毛布を掛けると、そのまま彼女を起こさぬようにそっと宿の部屋から出た。
「いらっしゃい、新鮮なお魚はいかが!?」
「魚よりも牡蠣が美味いよ!寄っていってよ!」
歳三が港へと向かうと、市場で新鮮な魚介類を売っている商人達から次々と声を掛けられた。
市場を抜けると、美しいレンガに囲まれた旧市街が見えて来た。
「お兄さん、寄っていらっしゃいよ。」
「良い夢を見させてあげるわよ。」
旧市街の中を歳三が歩いていると、娼館の窓から数人の娼婦達が顔を出して、彼に声を掛けた。
歳三は市場で食料品を購入した後、宿に戻った。
「帰ったぞ。」
「お帰りなさい。」
「宿の台所を使わせて貰うよう、主人に許可を取った。」
「そうですか。でもどうして自分達で料理を?」
「毒を盛られないようにする為だ。」
歳三と総司は、宿の台所で自分達の食事を作った後、それを部屋で食べた。
「今夜はゆっくり眠れそうだな。」
「はい。」
夜明け前、馬の嘶きの声で歳三は目を覚ました。
「総司、起きているか?」
「はい・・」
「客人が来たようだ。」
歳三が部屋から出て、下へと降りると、案の定そこには武装したリアン達が居た。
「ここに、この娘は泊まっているか?」
「いいえ、知りません。」
「おや、これは久しいですな。丁度あなた様をお迎えしようと思っておりましたのに。」
「何だ、お前!?」
「わたくしは、内藤と申します。長旅でお疲れでしょう、お茶をどうぞ。」
「ありがとう、頂こうか。」
リアンはそう言うと、歳三が淹れた茶を飲んだ。
すると彼は、強烈な眠気に襲われた。
「お客さん、起きて下さいよ!」
「何だ、うるさい・・」
リアンが低く呻きながら起き上がると、自分達の前には迷惑そうな顔をした宿の主人が立っていた。
「こんな所で酔い潰れないで下さいよ。」
「済まない。」
リアンはそう言うと、痛む頭を押さえながらテーブルから起き上がった。
「昨夜、わたし達に茶を振る舞った男は・・」
「あぁ。さっき、出航した南行きの船に乗られましたよ。」
「何だと!?」
「えぇ、可愛らしい娘さんと一緒に。」
(やられた!)
「リアン様、いかが致しましょう?」
「・・引き返すぞ。」
「ですが・・」
「くどい!」
「はい、わかりました・・」
(この借りはいつか返してやるからな!)
「今、何を海の中に捨てたのですか?」
「眠り薬だ。旧市街で会った薬屋から貰った。」
「まぁ、そうだったのですか。」
「足止め出来て良かったぜ。」
歳三はそう言って溜息を吐いた。
総司は、潮風に吹かれながら水平線の彼方を眺めていた。
「ここに居たのか?」
「えぇ。海に行くのは初めてなので・・」
「今まで、あの城の周りしか出歩かなかったのか?」
「はい。母様から、“あなたの為なのよ”と。」
「そうか・・」
「広い世界を、わたしは生まれて初めて知る事が出来ました。」
「これからだ、お前ぇが広い世界を知るのは。今まで知らなかった事を、お前ぇはこの旅で知る事になるんだ。」
「楽しみですね。」
「まぁ、楽しい事ばかりじゃねぇがな・・」
歳三の呟きは、潮風に乗って消えていった。
やがて二人を乗せた船は、南の港へと着いた。
その港は、様々な肌や髪の色をした人々が行き交い、活気に満ちていた。
「これからどうします?」
「まずは飯だ。」
歳三は港の人間にこの近辺で美味い店を尋ねた後、総司と二人でその店へと向かった。
その店は、海鮮料理が美味いと評判の店だった。
「この店で一番美味い物を頼む。」
「あいよ!」
店を切り盛りしている女将は、日に焼けた陽気な女性だった。
「お待たせしました!」
彼女が二人の前に置いたのは、海老を丸ごと焼いたものに、バターを炒めた料理だった。
「美味いな。」
「えぇ。」
「それにしても、お前ぇが居た所とは違って、ここは暖かいな。服を替えないとな。」
「そうですね。」
店を出た後、二人はこの地の民族衣装を何着か港の近くにある衣料品店で購入した。
「どうですか?」
「良く似合っているぞ。」
歳三が総司の為に選んだのは、美しい紫のドレスだった。
「あなたも、似合っていますよ。」
「そうか?」
「でも、髪を切る事はなかったんじゃないですか?」
「男の長髪は人目につきやすい・・特に黒髪はな。」
「そうですね・・」
通りを歩きながら、総司は人々が皆自分達と同じような肌の者が誰一人居ない事に気づいた。
「じゃぁ、わたしも切りましょうか、髪?」
「お前はそのままでいい。」
「そうですか。」
「先を急ぐぞ。」
「はい。」
二人は、活気に満ちた港町を後にし、王都を目指した。
「旅費が足りねぇな。」
歳三はそう言うと、残り数枚になった金貨をズボンのポケットの中から取り出して溜息を吐いた。
「じゃぁ、これを売って下さい。」
総司がそう言って歳三に差し出したのは、美しい細工が施された純金のメダイだった。
「これは?」
「母様の形見です。これを売れば、当分の生活費に充てられるでしょう。」
「そんな大切な物を・・」
「どんな物も、命には代えられません。」
「そうか・・」
総司からメダイを受け取った歳三がそれを宝石店に持っていくと、高値で売れた。
「こんなに見事な物、今まで見た事がない!」
店主はそう叫ぶと、感嘆の声を上げた。
「本当に、良かったのか?」
「えぇ。」
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