素材は
NEO HIMEISM 様からお借りしております。
「火宵の月」オメガバースパラレルです。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。
火月と禍蛇が暮らしている家は、同じ児童養護施設出身の者達が暮らしているシェアハウスだった。
バース性に対する差別を法律上では禁止されているものの、未だにバース性の差別は社会に蔓延っており、Ωの子供達は親から虐待を受けたり、捨てられたりして児童養護施設に引き取られた。
二人は共にΩで、彼女達は16歳の誕生日を迎えて施設から出た後、このシェアハウスで暮らし始めた。
このシェアハウスでは男女共にΩが多く、そのほかにβの男女が数人と、合計20人が共同生活を送っている。
「他の皆は帰ってないの?」
「うん。ねぇ火月、学校で何かあったの?俺にだけは隠さないでちゃんと話してよ。」
「実はね・・」
火月は親友に、学校で起きたことを話した。
「何だよそいつ、腹立つな!Ωには何してもいいっていうのか?」
「僕が悪いんだよ、番が居ないから。禍蛇はいいよね、番が居て。」
「あぁ、琥龍のこと?あいつ俺の番の癖に、この前俺とデート中なのにもかかわらずあいつ、βの女を見かけたらナンパしてるんだぜ、俺の前で堂々と!まぁ、後でシメてやったけどな。」
禍蛇の番である琥龍とは同じ施設仲間で、彼は事情があって親から捨てられたαだった。
主に貴族や政治家、資産家などの特権階級出身のαだが、家督争いや遺産相続などの「お家騒動」に巻き込まれ、施設に預けられたりするαの子供が稀に存在している。
琥龍も、そんなαの一人だった。
彼の実家は戦前華族であったが、戦後すぐに没落の憂き目に遭い、それから日本では有名な財閥の一つとして国内外でも知られている。
「あいつ、俺と番になって結婚する気あるのかな?まぁ、あいつはαだから、色々と縁談が来ているんだろうけど。」
「番が居るのと居ないのとでは大違いだよ。禍蛇は羨ましいよ、琥龍から愛されているんだもん。」
「火月も番を探せばいいじゃん。そうすれば襲われなくなるかもよ?」
「僕はいい。僕みたいなΩを欲しがる人なんて居ないもん。」
「そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃない?俺は火月の方が羨ましいよ。俺よりもスタイルいいし、頭もいいしさ。」
「そうかなぁ。ねぇ禍蛇、禍蛇が通っている学校にはαの生徒や先生は居るの?」
「居るよ。でも殆どβの生徒や先生が多いかな。火月の学校の方はどうなの?」
「どっちかというと、βが少数派で、αの方が多いかな。僕と同じΩの生徒は居るけれど、αやβと同じ教室で勉強できないんだ。」
「何それ、酷いじゃん。まぁ、火月が通っている学校は進学校だから、そうするのも無理もないけどさぁ、学校側がΩを軽く扱っているんじゃないの?」
「まぁ、学校側が決めた事に僕達は逆らえないし、別の学校でαの生徒がΩの生徒のヒートに当てられて集団レイプ事件が起きたっていうから、そういった事件を未然に防ごうとしているから、仕方ないよ。」
「でもさぁ、それだと俺達Ωが男女見境なくフェロモン撒き散らしている獣だって見ているようなもんじゃん。何かすっげぇ腹立つ~!」
禍蛇がそう叫んだ時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰かな、こんな時間に?」
「今日は俺達を除いてみんな、会社の研修に行ってて明日の朝まで帰って来ないって言ってたし・・一体誰なんだろう?」
禍蛇がそう言いながらインターフォンの画面を見ると、そこには泥酔状態のαと思しき数人の男達が映し出された。
『男日照りのΩちゃん、俺達の相手しろよ~』
『金なら沢山払うからさ~』
「警察に通報するね。」
火月がスマホを持って二階の部屋に逃げ込もうとした時、裏口のドアの鍵が誰かに回される音がした。
「おい二人とも、無事か!?」
「琥龍か、脅かさないでよ!」
ドアを開けて姿を現したのは、禍蛇と火月の幼馴染である琥龍だった。
「さっきαの野郎どもがこの家に来るのを見たから、警察に通報したぜ。二人とも、大丈夫か?」
「うん。それにしてもあいつら、何でここの場所知ってたんだろう?」
「さぁな。最近ここらへんでΩの襲撃事件が増えているから、警察に通報したらすぐに来てくれたぜ。ったく、最近変な奴が多くて困るよな。」
琥龍はそう言うと夕飯のカレーを一口スプーンで掬ってそれを頬張った。
「今後もこんなことがあるようなら、引っ越しを考えた方がいいかもしれないね。」
「そうだね・・でもさ、引っ越したら色々と不便だよ?それに、お金ないし・・」
施設から出て、禍蛇と火月はアルバイトをしながら高校に通っているが、バイト代ではスマホ代を含む生活費を稼ぐだけで精一杯だった。
「何だったら俺ん家来るか?部屋沢山余ってるし、万が一の事を考えたらそれがベストだと思うんだけどなぁ。」
「却下。琥龍ん家は周りにαが沢山居るし、琥龍の家から学校に通う距離が遠いし、色々と不便だよ。」
「そうか。なぁ火月、お前学校で虐められたりしてねぇか?」
「え、なんでそんな事急に聞くの?」
そう言って火月が琥龍の方を見ると、彼は低く唸った後、こう言った。
「実はこの前、俺が住んでるマンションの近くで飛び降り自殺があったんだよ。自殺したのは、お前と同じ高校に通ってた男子高校生で、最近Ωだって病院の検査でわかって、人生を悲観して死んだんだってさ。Ωだからって人生終わりっていう事はないのになぁ。でも、お前と同じ高校に通っていたって聞いたから、お前もΩだって事で色々と苛められているんじゃないかと思ってさぁ・・」
「僕は大丈夫だよ、琥龍。まぁ、うちの学校はΩの生徒ばかり集めた特殊学級があるから、αやβの生徒とは余り交流がないし・・」
火月はそう言いながら、数日前自分の机が何者かによって傷つけられていた事を思い出した。
「何かあったら俺を呼べよ、火月。お前を苛める奴は片っ端からぶっ飛ばしてやるから。」
「有難う琥龍、そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。」
「琥龍、俺がお前の番なんだけど?何で火月ばっかり構う訳?」
「何だぁ、ヤキモチか?」
「違う、俺が隙見せるとてめぇが火月に手ぇ出しそうで油断できねぇんだよ!」
禍蛇はそう琥龍に向かって怒鳴ると、彼の頭を拳骨で殴った。
「いってぇな、何すんだ暴力女!」
「うるせぇスケベ野郎、この間も部屋に女連れ込んでただろう?」
隣で口論を始める禍蛇と琥龍の姿を見ながら、火月は彼らの関係が羨ましいと思った。
いつか自分にも、番が現れるのだろうか。
「火月、どうしたの?」
「ううん、何でもない。先にお風呂、入ってくるね。」
無理に二人に向かって笑顔を浮かべると、火月はリビングから出て浴室へと入ると、深い溜息を吐いた。
その頃、有匡は都内某所にあるホテルで開かれている資産家のパーティーに出席していた。
「有匡、来てくれて嬉しいよ。」
「お久しぶりです、義父上(ちちうえ)。」
有匡がそう言って養父に挨拶すると、彼の隣に美しい振袖姿の若い女性が立っている事に気づいた。
その姿を見た途端、彼はこのパーティーの目的が解った。
「有匡、紹介するよ。こちらは三条家の・・」
「申し訳ありませんが義父上、少し酒に酔ってしまったようです。外の風に当たってきます。」
義父に反論する隙を与えず有匡は彼にそう言うと、そのままパーティー会場から出て行った。
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