『待ってくれ、ミズキ!』
瑞姫がブライダルサロンを飛び出そうとすると、ルドルフが彼女の手首を掴んだ。
『騙したんですね、酷い人!』
瑞姫はそう言ってルドルフを睨み付けると、彼は瑞姫を抱き締めた。
『君は誤解をしている、ミズキ。お願いだから戻ってくれ。』
『解りました。』
ルドルフとともにウェディングドレスの試着室へと戻った瑞姫は、様々なドレスを試着しながら、ルドルフが何を思って自分をここに連れてきたのか解らないでいた。
『お気に入りのドレスは見つかったかい?』
『ええ。』
瑞姫はそう言って、最初に試着したAラインのドレスをルドルフに見せると、彼は溜息を吐いた。
『このドレスは君に似合うけれど、何かが足りないな。』
彼は店員を呼ぶと、何か彼女に指示を出した。
『ドレスは決まったから、後は靴とアクセサリーだね。』
ブライダルサロンを出たルドルフは、瑞姫を連れて高級宝石店へと向かった。
『フランツ様、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。』
彼らが店内に入ると、店長と思しき男性がそう言ってVIPルームに案内した。
『頼んでおいたものは出来たかな?』
『はい、こちらに。』
男性が長方形の箱を恭しくルドルフに手渡すと、彼はそれを開いた。
そこには花を象ったダイヤモンドのネックレスがあった。
『イメージ通り、君にぴったりだ。』
ルドルフは高価なネックレスを躊躇いもなく瑞姫の首につけた。
『あの、こんな高価なもの、貰えません・・』
『君は美しいんだから、常に美しいものを身に付けていて欲しい。』
ルドルフはそう言うと、瑞姫の頬に軽くキスをした。
『今日は楽しかったよ。』
『わたしも・・』
ショッピングデートを終え、高級イタリアンでルドルフとディナーを楽しみながら、瑞姫はルドルフの手を握った。
『あの、ネックレスの事は・・』
『あれはわたしから君へのプレゼントだ。明後日のパーティーには付けてきて欲しいんだ。』
『パーティーが終わったら、お返し致しますから・・』
『そんな事はしなくていい。』
ルドルフはそう言うと、瑞姫の耳たぶを甘噛みした。
ディナーを終えた瑞姫は、ルドルフにマンションまで送って貰った。
『今日は楽しかったです、ありがとう。』
『パーティーで会おう。』
ルドルフは瑞姫に別れのキスとハグをして、リムジンに乗り込んだ。
数日後、瑞姫はルドルフとともに銀座のブライダルサロンへと向かった。
『ドレスは出来あがったか?』
『はい。』
『彼女の美しさを引き立てるようなメイクと髪型に仕上げてくれ。』
『かしこまりました。』
瑞姫はブライダルサロンの化粧室に入り、ウェディングドレスを見て絶句した。
数日前に試着したそれは、美しいレースと宝石で裾を飾られており、胸元は大きく開いていた。
「良くお似合いですよ。」
「あ、ありがとうございます・・」
その夜、オーストリア=ハプスブルク帝国大使館には、憧れの皇太子目当ての女性達と、取材陣が正門前に殺到していた。
やがて皇太子を乗せたリムジンが停まると、女性達は一斉に皇太子の名を呼び、手を振った。
彼女達の歓声に応えながらルドルフは始終笑みを絶やさずにリムジンの中に居る瑞姫の手を握り、彼女をエスコートした。
彼女がリムジンから降りた途端、あれ程騒いでいた女性達は水を打ったかのように静かになった。
「皇太子様、そちらの方は?」
「皆さんにご紹介いたします。彼女はわたしのフィアンセです。」
ルドルフはそう言うと、瑞姫を愛おしそうに見つめ、彼女の腰に手を回しながら、笑顔で大使館の中へと入っていった。
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Last updated
May 8, 2016 08:31:20 PM
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