「何だか、はーくんが辞めちゃって寂しいなぁ・・」
総司は溜息を吐きながら、窓の外を眺めた。
「今更何言ってるんですか、沖田先輩。笑顔で斎藤先輩のこと、送り出した癖に。」
「そりゃぁ、あの時は止められないってわかってたからさ、はー君のこと。はー君は一度決めたらそれを貫くタイプだからね。」
「いつも一緒じゃないですか、斎藤先輩と。」
「あ~、それ言っちゃうの?実はねぇ、はー君アパート出ていっちゃったんだ。実家に帰るってさ。」
「そうなんですか・・それで、沖田先輩はどうするんですか?」
「う~ん、どうしようか考え中。それよりも千尋ちゃん、この前のこと、気にしないで。」
「わかりました。じゃぁ、カルテの整理をしてきます。」
千尋がナースステーションへと戻る途中、ランドセルを背負った男児を見かけた。
こんな時間帯に、一体誰の見舞いに来たのだろうか。
「ねぇ僕、誰かに会いに来たの?」
男児を怖がらせないように、千尋は腰を屈めて彼と同じ目線になると、彼はじっと千尋を見た。
「お父さんに。」
「お父さんのお名前、わかるかな?」
「特別室の人。」
“土方さん、子供の親権のことで揉めてたんだって。”
脳裏に、総司の言葉が過ぎった。
「そう・・じゃぁ、お父さんに会いに行こうか?」
「うん!」
千尋が男児とともに歳三の病室に入ると、彼はそこには居なかった。
「すいません、土方さんは・・」
「ああ、土方さんは屋上ですよ。」
「ありがとうございます。」
男児と手を繋ぎながら、千尋は屋上へと向かった。
「陸、そこで何してるの!?」
屋上へのドアを千尋が開けようとすると、数日前自分に殴りかかってきた女性がつかつかと千尋達の方へと向かってくるところだった。
「お父さんに作文を見せたくて・・」
「そんなもの、見せなくていいの!わたしとおばあちゃん達にだけ見せたから、それで充分でしょう!?ほら、塾に遅れるわよ!」
嫌がる男児の手を、女性は無理やり引っ張った。
「お父さんにどうして会えないの?」
「駄目、あの人に会うのは止しなさい!あの人は赤の他人なの、わかった!?」
今にも泣き出しそうな顔をしている男児を、千尋は放っておけなかった。
「この子の言い分も聞いてあげてください。そうじゃないとこの子が可哀想・・」
「あんた、人ん家の事情に口を挟まないで!もしかしてあんた、この子をあたしから取り上げようと、あいつに頼まれたの?」
「そんな、誤解です!」
「今後あたし達に近づかないで、次は警察呼ぶからね!」
女性がそう怒鳴ったとき、屋上へのドアが開いた。
「いい加減にしねぇか、この前も騒ぎを起こしたくせに、まだ騒ぎ足りねぇのか!」
「うるさいわね!陸、帰るわよ!」
女性はそう言って歳三を睨むと、男児の手を引いて病院から出ていった。
「悪ぃな、お前に聞かせる話じゃなかったな。」
「いいえ・・では、戻ります。」
歳三に頭を下げると、千尋はナースステーションへと戻った。
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