「酷くやられたね、千尋ちゃん。」
土方の病室から斎藤に連れ出された千尋は、レクリエーションルームで総司から怪我の手当てを受けていた。
「いきなり殴りかかるなんて酷いよね、あの人。被害届、出した方がいいよ?」
「あの女性は・・」
「あの人、土方さんの別れた奥さん。何でも子供の親権で色々と揉めているらしいよ。離婚になかなか踏み切れなかったのも、子供のことがあるからだって。」
「そうなんですか・・」
「ここで言ったことは秘密ね。患者のプライベートはトップ・シークレットだからね。」
「解りました。忙しいのに怪我の手当てをしてもらってありがとうございます。」
「いいんだよ。さてと、患者さんに笑顔を届けよう!」
「はい!」
数分後、千尋は総司とともにナースステーションに戻ると、斎藤が同僚達と何かを話していた。
「はー君、どうしたの?」
「総司、いつも言うが職場ではその呼び方は止めろと・・」
「はいはい、わかったよ。で、さっき何を話してたの?」
「実は、この病院が雑誌の取材を受けることになってな。何でも、個性豊かな制服を採用している病院とか・・」
「あの人、マスコミ対策は上手いよねぇ。でもこんなふざけた制服の所為で僕達の仕事を誤解されちゃ困るよねぇ。」
「確かに。それで今から皆と院長の元へ抗議しようと話し合っていた。」
「何か面白そうだから、僕も行くね。千尋ちゃん、君も来なよ。」
総司達とともに千尋が院長室へと向かうと、中から誰かの話し声が聞こえた。
「院長、失礼致します。」
「ああ、入ってくれ。」
斎藤がドアを開けると、雅信は数人の女性達と談笑していた。
「彼女達は?」
「ああ、彼女達は僕の遊び仲間さ。用件は手短に頼むよ。」
「取材についてですが、断っていただきたい。我々は真面目に患者さんと向き合って仕事をしております。その仕事を、こんなふざけた制服の所為で世間に誤解されるのは心外です。」
斎藤の言葉を聞いた雅信の眦が上がった。
「この病院の話題づくりになるのに、取材を断れとはどういうことだ?」
「今申した通りです。みんなも同じ意見です。」
「そうなのか?」
「はい。前々から思っておりましたが、この制服は機能性も悪く、廊下を歩いている時に患者さんたちから嫌らしい視線を送られます。中にはあからさまにお尻や胸を触ってきたりする方がいらっしゃいます。」
「ここは病院であって、風俗店ではありません。院長先生の風俗好きは周知の事実ですが、公私の区別を弁えていただきたいです。」
看護師たちは日頃院長に対して抱いていた不満を一斉にぶちまけ、それを聞いていた雅信の顔が怒りで徐々に赤くなっていくのを千尋は見ていた。
「お前ら、俺に逆らったらどうなるかわかっているんだろうな?」
「そうおっしゃるかと思って、退職届を皆書きました。」
「本日限りでわたし達、辞めさせていただきます。」
「お世話になりました。」
皆に退職届を突きつけられ、今度は顔を蒼くした院長が倒れそうになるのを尻目に、斎藤達は院長室から出て行った。
「斎藤先輩、本気なんですか?」
「俺は本気だ。これ以上、生き恥を晒すようなまねはできん。」
「まぁ、君がそう決めたなら僕は止めないよ。寂しくなるね、はーくん。」
総司はそう言って斎藤を見た。
「達者でな、総司。」
斎藤達が院長に退職届を突きつけたことは、あっという間に病院中に広まった。
「斎藤さん、本当にやめちゃうの?」
「ああ。皆には申し訳ないが、今後のことは宜しく頼む。」
斎藤は皆から惜しまれながら、数日後に病院から去っていった。
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