「な、何なの、あなた方!?」
「勝手に入ってくるな!」
「うるせぇんだよ、クソ爺!」
突然部屋に乱入した数人の男女達はそう言って吉枝達を威嚇するように睨みつけると、ゆっくりと華凛の前へと立った。
「あなた方は、どなたです?」
「俺ぁ、あんたの親父に借金をしてたんだよ。その金、ここできっちり耳を揃えて返して貰おうか!」
「借金?お幾らですか?」
「3000万よ、3000万!こっちだって生活に困ってるのよ、さっさと返してよ!」
どう見ても闇金といったいかつい風貌をした男と、水商売風の女は華凛を恫喝した。
だが華凛はそれに動じずに、バッグの中から脩平の通帳を取りだした。
「ここに、3000万入っています。あなた方がそれで満足するのなら、どうぞ。」
「ふん、話がわかるじゃん、あんた。」
「それは、脩平さんが華凛ちゃん達の為に貯めていたお金でしょう!?こんな人達に渡すことないわよ、華凛ちゃん!」
「うるせぇ、婆、退け!」
「誰か、警察呼んで!」
吉枝は男に通帳を奪われまいと彼と揉み合いになり、苛立った男は彼女の胸倉を掴んで乱暴に突き飛ばした。
「警察呼びましたよ!もうすぐ来ますから!」
「クソ・・おい、行くぞ!」
畳の上に落ちた通帳を男が拾い上げようとしたのを見た華凛がそれを拾おうとした時、穣が素早く男の顔を拳で殴った。
「クソガキ、何しやがる!」
「叔父貴の葬式を汚すな、この禿鷹どもっ!これ以上ふざけたことしやがったら、ぶっ殺すぞ!」
穣は男達に向かって睨みをきかせると、彼らはすごすごと退散していった。
「ありがとう、穣・・」
「俺はてめぇに感謝されるおぼえはねぇ。俺は叔父貴に対して恩がある。それを返しただけだ。」
いつも仲たがいばかりしている従弟が、自分を助けてくれたことに驚きを隠せなかった華凛だったが、彼に感謝の言葉を述べると、彼は照れ臭そうな顔をしながら部屋から出て行った。
「穣ったら、また乱暴な事して・・」
「でも、あの子のお蔭であの人達を追い払えたからいいじゃないの。」
「そうよ。あの子だって、やる時にはやるじゃないの。」
「吉枝さん、いい息子を持ったわね。」
「あら、ありがとう・・」
告別式の日、華凛が親族席に座って弔問客に一礼していると、父の訃報を知ったのか、優菜が親族と思しき男性ととともに線香を上げに来た。
「この度は、ご愁傷さまでした・・」
「ありがとうございます。」
母親は違えども、実の兄妹が久しぶりに会ったというのに、交わした会話はその一言だけだった。
呆気ないほどの、短い時間だった。
「華凛ちゃん、あの子はどないするん?」
「あの子は、もううちとは関係ありません。父も亡くなりましたし・・」
「そやけどなぁ、脩平さんの遺産を寄越せ言うん違うか?妾の子やけど、権利があるさかいなぁ。」
「その事については、弁護士を通してきちんと話していこうと思います。伯母さん、色々と手伝って下さってありがとうございました。」
「別に謝ることはあらへん。“親しき仲にも礼儀あり”っていうけど、こんなときに畏まらんでもええ。」
「はい・・」
初七日の法要が済んだ後、華凛は弁護士を挟んで優菜と父の遺産のことで話し合うことになった。
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Last updated
2013年07月19日 15時27分30秒
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