「千尋さん、あなたまさか・・」
信子にそう言われ、千尋は自分が歳三の子を妊娠していることに気づいた。
「そんな・・もう閉経したと思っていたのに・・」
「閉経には個人差があるのよ、千尋さん。本当に、間違いないの?」
「ええ。」
「一度病院で診て貰ったら?」
信子に勧められ、千尋は病院へ行った。
「おめでとうございます、9週目に入っておりますよ。」
「そうですか・・」
「ただ、奥さんの年齢がね・・確か息子さん達を産んだのは、32歳の時でしたね?」
「ええ。」
「46歳となると、母体や胎児に負担が掛かりますし、生まれて来る赤ちゃんが障碍を持つ可能性が高いです。ご主人とよく話し合ってから、またこちらにいらしてください。」
「わかりました・・」
病院を出た後、千尋は溜息を吐いた。
明歳達を産んだ時、まだ千尋は若くて体力があったが、今は違う。
この子は諦めるしかないのか―そう思いながら千尋が帰宅すると、歳三が彼女に笑顔を浮かべて彼女の元へと駆け寄ってきた。
「なぁ、さっき信子さんから聞いたけど・・」
「今9週目に入っているところだと、お医者様から言われました。」
「そうか。」
「あなた、この子は諦めようと思います。」
千尋の言葉を聞いた歳三の顔から、笑顔が消えた。
「中絶する気なのか?」
「ええ。わたくしの年齢を考えれば、お腹の子を諦めるしかありません。もし無事にお腹の子が生まれたとしても、何らかの障碍を持って生まれて来る可能性が高いと・・」
「そんなの、わからねぇだろ!なぁ千尋、産んでくれよ!」
「お願いですあなた、わかってください。」
千尋はそう言って自分の肩を掴んでいる歳三の手をそっと振りほどき、和室に入った。
「千尋さん、どうなさるおつもりなの?」
「歳三様は、産んで欲しいと・・でも、わたくしは諦めようと思っているの。」
「千尋様だけの問題ではないわよ。歳三様だって責任重大よ。ちゃんと夫婦で話し合ってちょうだい。」
「わかっているわ、そんなこと・・」
「母さんが妊娠?それ、本当なのか父さん?」
「ああ・・」
「そりゃぁ、子どもが出来るようなことをすれば、妊娠するだろうよ。父さん、母さんの身体の事を気遣ってやれよ。」
「わかってるよ、そんな事。」
「歳三さん、お話があります。」
千尋はそう言って歳三の手を掴むと、リビングから出て行った。
「ちょっと和室まで来てくださいますか?」
「ここでいいだろ?」
「夫婦だけで話したいのです。」
「わかった・・」
和室に入った千尋は、彼の前に置いてある座布団の上に腰を下ろした。
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