テーマ:二次創作小説(1030)
素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。 「火宵の月」オメガバースパラレルです。 作者様・出版社様とは一切関係ありません。 オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。 「お疲れ様です。」 「お疲れ~」 火月はアルバイト先のスーパーから出て、従業員用の駐輪場に停めてあった自転車に乗ってシェアハウスへと向かっている途中、一台の車が自分を尾行している事に気づいた。 気味が悪いな―そう思いながら火月が自転車を漕いでいると、その車は一定の距離を取り、火月を尾行した。 恐怖とパニックに陥った火月が闇雲に自転車を漕いで車から逃れようと脇道を抜けた時、彼女の前に一台のトラックが現れた。 「バカ野郎!」 あと少しでトラックに轢かれそうになった火月が我に返って背後を振り向くと、そこにはあの車の姿はなかった。 「ただいま・・」 「遅かったね、どうしたの?」 「実は・・」 シェアハウスに無事帰宅した火月は、禍蛇に車の事を話した。 「え~、何それ怖い!最近変質者がここら辺に出没しているみたいだから、気をつけないとね。」 「うん・・」 「それにしても聞いた?Ω隔離政策、いよいよ本格的に進んでいるらしいよ。」 「本当?」 「嫌な世の中になったよね。」 禍蛇はそう言うと、溜息を吐いた。 「火月、バイト先では苛められていない?」 「うん。バイト先の人は皆優しいよ。学校では、転校生に目をつけられて疲れるけど・・」 「転校生?どんな奴?」 「銀髪の、帰国子女って奴?何でも、理事長の親戚みたい。」 「ふぅん。」 禍蛇はそう言うと、鶏の唐揚げを口の中に放り込んだ。 「何かさぁ、俺達Ωには人権ないって言われているような気がしてならないんだよね。俺さぁ、偶々俺達Ωに生まれただけだっていうのに、“居ない者”扱いされてさぁ・・」 「わかる。」 夕食後、火月と禍蛇が食べ終わった食器を流しで洗いながらそんな事を話していると、突然玄関のチャイムが鳴った。 (こんな時間に、誰だろう?) 火月が恐る恐るインターフォンの画面を覗き込むと、そこには自分を尾行していた一台の黒塗りの車が映っていた。 「警察、呼ぼうか?」 火月の怯える様子を見て何かを察した禍蛇がそう言うと、火月は無言で頷いた。 『本当に、ここなの?』 『間違いありません、お母様。』 『待って・・あれ・・』 車から出て来た親子と見られる三十代前半位と見られる男性と、五十代前半と思しき女性は、そんな会話を交わした後、遠くから見えるパトカーの赤色灯に気づいたのか、素早く車の中へと戻り、去っていった。 「そうでしたか。最近物騒なので、パトロールを強化していきますね。」 「お願いします。」 通報を受けてシェアハウスに駆け付けて来た警察は、そう言って去っていった。 「戸締りをしっかりしないとね。」 「うん。」 「お休み。」 「お休み。」 火月と禍蛇がそれぞれの部屋で眠りに就いた頃、一組の親子が都内某所にあるマンションの一室である事を話していた。 「“あの子”には、会えなかったわね。」 「お母様・・」 「どんな手を使ってでも、“あの子”をこの家に取り戻さないと・・」 『マザー、“お時間”です。』 「わかりました、すぐ行きます。」 「お母様、気を付けて。」 激しい雷鳴と共に、部屋が闇一色に包まれた。 (停電か・・) 有匡は舌打ちすると、懐中電灯のスイッチを入れ、読んでいた週刊誌の記事に目を通した。 そこには、ある新興宗教団体が起こしたリンチ殺人事件についての、凄惨な内容が書かれていた。 (“輝く星”か・・確か、数年前に何処かでこの団体を見たような気がするな。) 有匡は記憶の糸を手繰り寄せながら、“ある出来事”を思い出そうとしたが、いつの間にか眠ってしまった。 雷鳴が轟く中、森の中にある白亜の宮殿で、“儀式”が行われた。 「さぁ、祈りなさい。」 祭壇の中央には、心臓を抉り出され絶命している少年の遺体があった。 「さぁ!」 雷鳴が轟き、それに呼応するかのように信者たちが一定のリズムで祈り始めた。 「マザー!」 「マザー!」 信者達に崇められ、彼らに“施し”を授けている女性は、神域“輝く星”の代表である、高原鈴子である。 「さぁ、祈りなさい。祈ればあなた方は救われるのです!」 ―オォォッ! 宮殿内は、異様な熱気に包まれていた。 ―お父さん、お母さんは何処に行ったの? ―有匡、これからはお父さんと一緒に暗そうね。 幼い頃、母が家から出て行った後、父はそう言って自分を抱き締めた。 ―お父さんは・・だから・・ 時折、父の言葉が、一部ノイズが入り聞こえなくなってしまう。 (一体、これは・・父は、わたしに何を伝えようとしているんだ?) 「土御門先生、少しやつれた顔をしていますね?大丈夫ですか?」 「昨夜、中々寝付けなくて・・」 職員室で有匡が自分の机で仕事をしていると、同僚の女性教師がそう言って有匡を見つめて来た。 「寝不足は身体に良くないですよ?」 「そうですね、気をつけます。」 有匡はそう言った後、仕事を再開した。 「はぁ・・」 火月は、図書館で何度目かの溜息を吐いた。 麗がいつも火月の姿を見ると何かと絡んで来るので、火月は教室には行かずに、図書館に避難していたのだった。 図書館には、火月のようにΩの生徒が居て、火月はすぐさま彼らと親しくなった。 「高原さん、シェアハウスに住んでいるの?」 「うん。それまで、施設で暮らしていたんだ。」 「へぇ、そうなの。Ωでも住めるシェアハウスってあるんだ。」 「Ωっていうだけで、門前払いする不動産屋が多いからね。」 昼休み、火月達が中庭で昼食を取っていると、そこへ麗がやって来た。 「高原さん、この子達は?」 「あなたには関係ないでしょう。」 「おやおや、冷たいねぇ。」 麗はそう言ってわざと口笛を吹くと、去っていった。 「気にしなくてもいいわよ、あんなの。」 「九条君って、わたし苦手。」 「わたしも。」 有匡は中庭での光景を廊下で見ながら、口元に笑みを浮かべた。 「先生、どうされました?」 「いいえ、何でもありません。」 「早くしないと、職員会議に遅れますよ。」 「はい・・」 職員室に入った有匡は、自分の席に暁人の姿がある事に気づいた。 「理事長、わたしの机で何をしているのですか?」 「いえ、ちょっと汚れを取ろうと思いまして・・」 暁人は少しバツの悪そうな顔をすると、有匡の机から離れた。 (何だったんだ・・) 「皆さん、揃いましたね。では、職員会議を始めます。」 「理事長、手短に終わらせましょう。」 「そうですね。今回皆さんに集まって貰ったのは、Ω隔離政策についてです。」 暁人はそう言うと、有匡達に書類を渡した。 「Ωについてのアンケート?」 「この学校には、αやβの生徒が多く、Ωの生徒は少数派です。なので、Ωについての意識調査のアンケートを・・」 「そのアンケートを全校生徒に取って、どうなさるおつもりなのですか?」 「そ、それは・・」 「もしかして、バース性の差別解消の為だとお思いになっているのなら、それは大間違いです。」 有匡がそう言って暁人を睨むと、彼は顔を赤くして俯いた。 「先生方、期末テストがもうすぐ行われますので、カンニング対策や試験問題の漏洩対策を万全にして下さいね。」 職員会議は滞りなく終わった。 「それにしても、理事長は一体何を考えているのかしら?」 「本当ですよ、あんなアンケート、何の意味もありませんよ。」 「そうそう、今は期末テストへの対策をしなければ。」 「高田先生、聞きました?最近、“輝く星”が復活したそうですよ。」 「“輝きの星”?何です、それは?」 「高田先生は、若いから知りませんよね。今から三年前、凄惨なリンチ殺人事件が起きたでしょう?その事件を起こしたのが、“輝く星”なんです。」 「そういえば、この前駅前で集会を開いていた人達を見ましたけれど、みんな赤い服を着て不気味でした。」 「その人達が、“輝く星”の団員達だよ。赤は、教団のシンボルカラーなんだってさ。」 「へぇ・・」 「ここだけの話だけど、理事長が“輝く星”の信者みたいだよ。」 「え~!」 そんな噂が学内を飛び交う中、有匡達は期末テストを迎えた。 「ただいま・・」 「お帰り。テスト、どうだった?」 「何とか、出来たかも。禍蛇は?」 「微妙。数学は出来た方かなぁ。」 「今日は疲れたから、もう寝るね。」 「お休み。」 期末テストが無事終わり、火月は安堵の溜息を吐きながら自転車を漕いでいると、一台のワゴン車が近づいて来た。 「見つけた!」 「聖女様だ!」 ワゴン車から出て来たのは、鮮やかな赤い服を着た数人の男女だった。 火月は助けを呼ぼうとしたが、口に薬品が染み込んだハンカチを押し当てられ、意識を失った。 「火月、遅いな・・」 「もうバイトが終わった頃よね?火月ちゃんのスマホにかけてみたら?」 「うん・・」 禍蛇は火月のスマホに何度もかけたが、繋がらなかった。 「繋がらない・・」 「警察に行きましょう、手遅れになる前に!」 (火月、どうか無事でいて!) 「暁人様、“彼女”を捕えました。」 「そうか。」 「“彼”は、どうなさいますか?」 「それはわたしに任せて下さい。」 暁人はそう言った後、口端を上げて笑った。 (誰だ、こんな時間に?) 自宅で仕事をしていた有匡は、知らない番号がスマホに表示され、詐欺電話だと思いながらも、通話ボタンを押した。 「もしもし・・」 『あぁ、やっと繋がった!あんたが有匡!?』 「誰?」 電話を掛けて来た相手は、火月の親友だという。 彼女の話によると、火月がアルバイト先のスーパーから未だにシェアハウスに帰宅していないという。 『あんた、火月が何処に居るのか知っているよね!?』 「知る訳がないだろう。どうしてわたしのスマホの番号がわかったんだ?」 『火月が、自分に何かあったらあんたにかけるようにって、俺に教えてくれたんだよ。』 「警察には連絡したのか?」 『もうとっくにしているよ!』 「わかった。わたしも火月を捜してみる。」 有匡はそう言うと、車で火月のバイト先へと向かった。 「あぁ、彼女なら三時間前に帰りましたよ。」 「そうですか・・」 「そういえば、以前彼女の事をしつこく尋ねて来た人が居ましてね。」 「どんな人でした?」 「赤い服を着た、女の人ですよ。髪はお団子にしていて、高そうな眼鏡を掛けていました。」 (赤い服・・) ゾワリと、有匡は嫌な“何か”を感じた。 「あ、名刺貰いましたよ。」 スーパーの店長は、そう言うと一枚の名刺を有匡に手渡した。 そこには、“輝く星・代表 高原鈴子”と印刷されていた。 「ありがとうございました。」 「いえいえ、彼女、早く見つかるといいですね。」 「え、えぇ・・」 店長の言葉に微かな違和感を抱きながら、有匡は人気のない道を車で走っていた。 すると、脇道に一台の自転車が倒れている事に気づいた。 (これは・・) 車から降りた有匡は、スマホで自転車の写真を撮り、それを禍蛇のスマホに送った。 『火月の自転車だよ。』 何故火月の自転車がここにあるのか―有匡は、スーパーの店長の話を思い出しながら、火月が何者かに拉致されたのだろうと考えた。 (一体、彼女は何処に・・) 「あのう、すいません・・」 突然背後から声を掛けられ、有匡が振り向くと、そこには赤いワンピースを着た女が立っていた。 「A町には、どう行けばいいのでしょう?」 「あぁ、A町には、その先の交差点を右に曲がって・・」 有匡は女性に道案内をしていると、突然首筋に激痛が走り、意識を失った。 ―有匡、ごらん、あれが、“聖女”様よ。 幼い頃、母に連れられた白亜の宮殿で、有匡は子を抱いている“聖女”を見た。 ―あの方に抱かれているのが、希望の子よ。 母は、“輝く星”の信者だった。 彼女は土御門家の財産を、教団に献金する為に食い潰していた。 だから― 「う・・」 「お目覚めになられましたか、“聖女”様?」 火月がゆっくりと目を開けると、そこは白一色の世界だった。 「ここは・・」 「ここは、“聖域”。」 火月が部屋の中を見渡すと、壁には一人の女性の肖像画が掛けられていた。 女性は、自分と瓜二つの顔をしていた。 (お母・・さん・・?) 同じ頃、有匡は手枷と足枷をつけられた状態で目を覚ました。 「アダム様・・」 部屋の中に、あの赤いワンピースの女性が入って来た。 「どうか、お情けを・・」 彼女はそう言った後、徐にワンピースを脱いで裸になった。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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Jan 31, 2024 10:20:59 PM
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