「沖田先輩、おはようございます。」
更衣室に千尋が入ると、総司がじろりと彼を睨んだ。
「千尋ちゃん、外でマスコミに取り囲まれてたでしょ?」
「はい。一体何がなんだかわからなくなってしまって・・」
「多分、これが原因だと思う。」
そう言って総司が千尋に見せたのは、今日発売の週刊誌だった。
その特集記事には、騎手時代の土方の写真と、何処から手に入れたのか、専門学校時代の千尋の写真が並んでいる。
“かつてのスター、現在バツイチ、入院先で天使と熱愛中!”という派手な見出しとともに、事実無根の内容が書かれていた。
「こんなの、事実無根です!」
「そりゃそうさ。僕達は君と土方さんがこんな関係じゃないって信じてるよ。でもね、世間ではこの記事を鵜呑みにする連中が多いってことさ。」
総司とともにナースステーションへと向かった千尋は、そこで同僚達の刺す様な視線を浴びた。
「岡崎君、ちょっと。」
事務局長が手招きしているのを見た千尋は、彼の部屋へと向かった。
「実はね、今朝うちの病院のホームページのサーバーがダウンしたんだ。」
「原因は、あの記事の所為ですか?」
「恐らくそうだろう。だがわたし達はこの記事が事実無根の内容であることは信じているよ。ただ、医療現場は患者の命を預かる場であり、人間同士が繋がる場所だ。ゴシップや噂でこの病院の印象が悪くなったら困るからね。」
事務局長が自分に何を言いたいのかがわかった。
「俺に、辞めろってことですか?」
「いいや。君に辞めさせるつもりは全くないよ。君は優秀な看護師だし、記事のことなど気にせず普段どおりにしていなさい。」
「わかりました。」
事務局長に頭を下げ、彼の部屋から出た千尋が廊下を歩いていると、違う科の看護師達がひそひそと何かを囁き合っていた。
恐らく、記事のことだろう。
「岡崎、行くぞ。」
「はい。」
いつものように千尋が患者の検温をしに病室を巡回していると、ある男性患者の家族が斎藤に詰め寄っていた。
「あの人はいつ辞めるんですか?スキャンダルを起こす看護師に診て貰うのは不安です!」
「申し訳ありませんが、岡崎は優秀な看護師です。彼を解雇するかは、院長の判断がありませんと・・」
「そうですか。」
その家族は不満そうにそう言うと、斎藤に背を向けた。
「あんなのは気にするな。」
「はい・・」
千尋が特別室の前を通ると、中から男女の言い争うような声が聞こえた。
「あたしと離婚したがってたのは、この子が原因だったのね!」
「違うっつってんだろうが!」
歳三がそう言って離婚した妻を睨みつけた時、突然喘息の発作に襲われ、彼は喉元を掻き毟(むし)った。
「土方さん、どうされましたか?」
明らかに尋常でない土方の様子を見た千尋が病室に入ると、女性が彼を睨んだ。
「この泥棒猫、うちの人を返してよ!」
女性はそう叫ぶなり、千尋の頬を叩いた。
「土方さん、ゆっくり呼吸してください。」
千尋が吸入器を土方の口元に持っていこうとすると、女性が彼を突き飛ばした。
「この人に触らないでよ!」
「やめてください、何するんですか!」
「この人を陰で誘惑して、わたしから奪い取ろうとしてるんでしょう!」
錯乱した女性は口汚く千尋を罵りながら、彼の髪を掴んだ。
斎藤が警備を呼んだのか、数人の警備員が女性を羽交い絞めにして病室の外へと連れ出した。
「大丈夫か、岡崎?」
「はい・・」
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