一週間続いた春の収穫祭は、最終日を迎えた。
「パン、如何ですか~!」
「美味しいパン、如何ですか!」
凛達聖マリア孤児院の子供達は、市庁舎の前でパンを売っていた。
「みんな、一休みしよう。」
「はぁい。」
「リン、お前はどうする?」
「一度孤児院に戻って、お昼を食べるよ。」
「わかった。一時半までに市庁舎の前に来るんだぞ、いいな。」
「わかった。」
凛がアレックス達と別れて市庁舎からバスで孤児院に戻ると、そこには誰も居なかった。
「リン、お帰り。」
「トム、先生達は?」
「先生達なら、さっき買い出しに行ったよ。」
「そう。」
「リン、昨日先生達が話していたことを聞いたんだけれど、リンの死んだお父さんの親戚がリンのことを引き取るって本当?」
「今はまだわからないけれど、たぶんそうなると思う。」
「へぇ、そうなんだ。」
トムはそう言うと、凛をじっと見た。
「何?」
「なんでもないよ。それよりも、今日は天気がいいから外でお昼を食べない?」
「いいね、それ!」
「待ってて、キッチンにサンドイッチを取りに行ってくるから。」
「わかった。」
トムはキッチンに入ると、バスケットの中を開けて凛の分のジュースに睡眠薬を砕いて入れた。
「トム、何処に行くの?」
「湖の近くに、良い所があるんだ。」
孤児院を出たトムは、凛を湖へと案内した。
「僕一時半までにみんなのところに戻らないといけないんだけれど、間に合うかなぁ?」
「大丈夫だよ。」
トムはそう言って凛に微笑みながらも、裏でどうやって彼を陥れようかと企んでいた。
一方、歳三は凛に会う為に軽い旅支度をしてウロボロスへと向かおうと部屋から出ようとしたとき、執事長のトーマスが慌てた様子で部屋に入って来た。
「トシゾウ様、大変です!」
「どうした、トーマス?」
「マクシミリアン様が、高熱で倒れられました!」
「何だって!?」
トーマスと共にマクシミリアンの部屋に向かった歳三は、ベッドの上で高熱にうなされている我が子の姿を見た。
「すぐにこの子を病院に連れて行く。」
「お車をまわしてきます。」
マクシミリアンは肺炎に罹り、暫く入院することになった。
「レイチェルは何処に居る?」
「若奥様は、今どちらにいらっしゃるのかわかりません。」
「息子が大変な事になっているってのに、何をやっているんだ。」
歳三はそう呟くと、苛立ちを紛らわすかのように壁を殴った。
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