※BGMと共にお楽しみください。
「火宵の月」の二次創作小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
その日は、雲一つない快晴の日だった。
「見て、綺麗な空!今が戦争中だなんて思えないや!」
腰下までの長さがある金髪を揺らしながら、一人の歌姫はそう叫んで青空を見つめた。
「火月様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、そろそろお時間ですよ。」
「わかった。」
歌姫―エーリシア連合国軍所属の高原火月は、音楽祭に出演する為、基地に来ていた。
戦場で戦っている兵士達を慰める為、火月は音楽祭に出演している他の歌姫達と音楽祭を盛り上げた。
音楽祭の盛り上がりが最高潮に達した時、“それ”は起きた。
「何あれ?」
「サプライズ?」
観客達が口々にそう言いながら上空を見上げると、そこにはカラフルな落下傘が次々と地上に降りて来た。
「え、あれ・・」
観客達が地上に降りて来た者達が、敵国軍の兵士達だと気づいたのは、彼らのシンボルカラーである真紅の軍服が落下傘の陰から見えた時だった。
「逃げろ、敵だ!」
それまで歓声に包まれていた会場は、悲鳴と銃声、怒号に包まれた。
「火月様、こちらです!」
「一体何が起きているの!?」
「それは、わかりません。それよりも早く・・うっ!」
火月は、目の前で人が撃ち殺されるのを初めて見た。
「嫌、しっかりして!」
無駄だと知りながらも、火月は倒れた男の身体を揺さ振った。
その時、無機質かつ冷たい靴音が火月の方へと近づいて来た。
(敵の残党か・・)
紅蓮の炎と漆黒の煙に包まれ、ラグナス皇国大佐・土御門有匡は、弾切れになった拳銃を床に投げ捨てると、携帯していたダガーナイフを取り出し、敵の残党へと迫っていった。
その時、一陣の風が吹き、太陽の光が“敵”の姿を照らした。
白磁のような肌、眩い光を放つ美しい金髪、そして上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。
“せんせい、ぼくがおとなになったら、けっこんしてくれる?”
幼い頃、大切な“誰か”と交わした約束。
“あぁ、約束だ。”
「火月、火月なのか・・?」
「先‥生・・?」
火月は、自分の前に立っている敵兵が、初恋の人である事に気づき、驚愕の表情を浮かべた。
“大きくなったら、結婚しよう。”
そう言って自分に優しく微笑んでくれた大切な人は、自分に向かってナイフの刃先を向けていた。
どうして、彼が敵軍に居るのか。
何故、彼が“ここ”に・・
「大佐、ご無事ですか!?」
二人が互いに見つめ合っていると、そこへ一人の兵士が現れた。
「あぁ。」
「この女は、殺しますか?」
「いや、この女は人質として価値がある。彼女はわたしに任せて、お前は先に行け。」
「はっ!」
有匡の部下が二人の前から去ると、有匡は冷たい目で火月を見た。
「わたしと、共に来て貰おうか?」
「嫌だと言ったら?」
「力ずくで、連れて行くまでだ。」
有匡はそう言うと、火月の鳩尾を殴って気絶させた。
「済まない、火月。わたしを許されないでくれ。」
有匡は火月を横抱きにすると、惨劇の舞台から去って行った。
“こんな所に居た。どうして、泣いているの?”
“僕の目が、気持ち悪いって。”
“どうして、こんなに綺麗なのに。”
そう言って自分に優しく微笑んでくれた、有匡。
彼と共に過ごした時間は、何よりも楽しかった。
だが、別れの時は突然訪れた。
“戦争になったら、会えなくなるの?”
“大丈夫、また会えるよ。”
別れの時、火月は有匡とあの約束を交わした。
それなのに―
(どうして、こんな形で再会ってしまったんだ。わたしは、お前の事だけを想っていたんだ。どうか、お前のあの笑顔が、曇らぬように、わたしは・・)
有匡は、自分の膝上で眠っている火月の美しい金髪を優しく梳いた。
(わたしは、この先どんな事があっても、お前を守る。だから、今は幼子のように眠れ、火月。)
「ん、先生・・」
火月が寝返りを打った時、彼女が耳につけていた紅玉の耳飾りが美しく光った。
「ゆっくり眠れ。」
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