表紙素材は、
このはな様からお借りしました。
「黒執事」の二次小説です。
平井摩利先生の「火宵の月」パラレルです。
原作とは若干設定が違っています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
「チッ、遅かったか・・」
セバスチャン=土御門=ミカエリスは、野猫族によって喰い殺された民達を見て、そう言った後舌打ちした。
毎夜の如く鎌倉に現れ、人の血肉を喰らう野猫族調伏の為、京からやって来たセバスチャンだったが、ことごとく野猫族に裏を掻かれ、その尻尾すらも掴めなかった。
(紅い月・・確か、紅い月は魔力を高めるとか・・)
セバスチャンがそんな事を思っていると、微かな妖気を感じた。
「何者だっ!」
気配を感じたセバスチャンが筮竹を投げると、木陰から一人の少年が現れた。
「済まない、驚かせるつもりはなかった。」
そう言った少年は蒼銀色の髪をなびかせ、蒼と紫の瞳でセバスチャンを見つめた。
「お前、セバスチャン=ミカエリスだな?」
「そうですが、あなたは?」
「お前にお願いがあって来た。」
「わたしに、お願いですか?」
「僕を孕ませろ!」
「わたしは男に、子を産ませる術など持っていませんが?」
「違う・・僕は、男でも、女でもなくて・・」
「と、いいますと?」
「僕の一族は、60年に一度の変化期を迎えると、伴侶に合わせて雌雄どちらにもなれる両性体で、未分化なんだ。」
(両性体?未分化?よくわかりませんが、妖の類ですか・・)
「運が悪かったですね、わたしは今、機嫌が悪いのですよ。」
「お、おい、待て・・」
「行け、式神!」
「やめろ、僕は、うわぁぁ~!」
セバスチャンに青龍で脅され、少年は石段から転げおちていった。
(随分と呆気ないものですね・・)
セバスチャンがそう思いながら石段から転げ落ちた少年の方を見ると、そこには黒豹が転がっていた。
(これは、一体・・)
セバスチャンは、黒豹の左耳を飾っている蒼玉の耳飾りを見た途端、“過去の記憶”が脳裏によみがえった。
―お前の涙、とても綺麗だ。
池に落ちた猫を助けたセバスチャンは、その猫の涙が美しい蒼玉へと変わるのを見た。
「あなた、野猫族ですか?」
「野猫族?」
「知らないのですか?近頃、この近辺に出没し、人の生き血を啜る化物ですよ。」
「確かに、僕は野猫族だが・・妖力や腕力が低くて、仲間から馬鹿にされて・・」
「あなたのようなおっちょこちょいの妖、見た事がありませんからね。」
「そ、そんな・・」
「そういえば、あなた、まだ名前を聞いていませんでしたね。」
「シエル・・蒼い空という意味で、シエル。」
これが、セバスチャンとシエルの出会いだった。
「シエル、何故あなたはわたしの子を産みたいと?」
「だってお前、鬼の子なんだろう?陰陽師・セバスチャン=土御門=ミカエリスの名は、妖の世界でも有名だ。」
「まさか、それが理由ですか。だとしたら、他の男に抱かれなさい。わたしにとって、異類婚とは忌むべきものですからね。」
「嫌だ、お前じゃないと嫌なんだ!」
「落ち着きなさい。シエル、あなたの傷が治るまで、ここに居てもいいですよ。」
「いいのか?」
「ええ・・傷が治るまで、わたしを“その気”にさせたら、考えてあげてもいいですよ。」
「えっ・・」
「ふふ、冗談ですよ。」
その日の夜、セバスチャンは中々眠れずにいた。
“だってお前、鬼の子なんだろう?”
あの少年―シエルの言葉を受け、セバスチャンは目を閉じながらあの黒猫の事を思い出していた。
帝を惑わした鬼と、それを退治する筈だった陰陽頭だった父との間に生まれ。父親を亡くし、母からは捨てられ、周囲からは気味悪がられた。
―鬼の子だ!
―怪しげな力を使う化物め!
―近づくんじゃないよ、頭から喰われちまうよ。
いつも、独りだった。
独りで、寂しかった。
そんな中、セバスチャンは池で溺れていた黒猫を助けた。
黒猫は、蒼と紫の瞳をしていた。
黒猫の涙は、たちまち美しい蒼玉へと変わっていった。
『お前の涙、とても綺麗だ。そうだ、お前の名は蒼玉(そうぎょく)にしよう!』
黒猫―蒼玉は、セバスチャンにとって初めて出来た友達だった。
だが、蒼玉は遠縁の伯父によって捨てられ、セバスチャンは彼と共に京へ向かった。
(あれからもう20年か・・蒼玉は、流石に死んでいるでしょうね・・)
そんな事を思いながらセバスチャンが寝返りを打とうとした時、何者かの気配がした。
「何者!?」
「済まない、驚かせて・・」
「シエル、どうして・・」
「そ、それは・・」
「もしかして、夜這いですか?」
セバスチャンの問いに、シエルは乾いた笑い声を上げた。
セバスチャンは、シエルの額に札を貼った。
「これは?」
「動きを封じる魔除けの札です。」
「お前、最低だなっ!」
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