「千尋、お帰りなさい。今日は圭ちゃんの社会科見学に付き合ってくれて有難う。」
「ただいま、母さん。今日はカルチャースクールでのお仕事、早く終わったの?」
「ええ。今日は余り忙しくなかったから、早く終わったの。圭ちゃんは?」
「圭太なら、塾の友達と遊びに行ったよ。それよりも母さん、弥生さんからクリスマスパーティーに誘われたんだけれど、行ってもいいかな?」
「クリスマスパーティー?」
「うん。弥生さんの旦那さんの会社で、今週末にあるんだって。」
千はそう言うと、千佳にパーティーの招待状を見せた。
「石田製薬さんだったら、優之さんの職場ね。わたしも行きたいところだけど、この時期は色々と忙しいのよ。」
「じゃぁ、行ってもいいんだね?」
「勿論よ。でも弥生さん達にはご迷惑をおかけしないようにしなさいね。」
「解った。母さん、今日は夕飯僕が作るね。」
「有難う、助かるわ。」
「母さんは仕事で疲れているんだから、たまにはゆっくりと休んでいて。」
千佳がリビングのソファに座るのを見た千は、冷蔵庫からハンバーグ用の挽肉(ひきにく)を取り出した。
「只今帰りました。」
「あら土方さん、お帰りなさい。貴方も圭ちゃんに付き合ってくれて有難う。」
「こっちで世話になっているから、当然の事をしているまでだよ。それよりも千、何を作っているんだ?」
「ハンバーグです。宜しかったら土方さんも一緒に作りませんか?」
「ああ。」
千がキッチンで歳三にハンバーグの作り方を教えていると、リビングに優之が入って来た。
「ただいま。千佳さん、父さんから連絡はあった?」
「ええ、さっきあったわ。向こうでトラブルが起きたから、こっちに帰るのが遅くなるって言っていたわ。」
「そう。そういえば今週末にうちの会社でクリスマスパーティーがあるんだけれど、千佳さんも来ない?」
「行きたいのはやまやまだけれど、仕事が忙しくて行けそうにないわ、ごめんんなさい。あぁ、そういえば土方さんと千尋がそのパーティーに誘われたんですって。」
「そうか。じゃぁ俺もそのパーティーに出るから、そのついでに千尋達を会場に連れて行くよ。」
「有難う。」
「それじゃぁ、俺はもう行くから。」
「夕飯は食べて行かないの?」
「これから大学時代の友人達と会うんだ。」
「そう、気を付けてね。」
優之がリビングから出て行こうとした時、彼は歳三と目が合った。
「余り俺に迷惑を掛けないでくれよ。」
「解ってるよ。あんたの手を煩わせるような事はしねぇ。総司が見つかり次第、ここから出て行くさ。」
「そうしてくれると助かるよ。」
歳三と優之との間に、見えない火花が散った。
「なぁ千佳さん、あいつはどうしてあんたの事を名前で呼ぶんだ?血が繋がらないとしても、普通はあんたの事を母さんって呼ぶはずだが・・」
「優之さんは、小さい頃に実の母親と死別したのよ・・その人は、若くしてガンで亡くなったの。わたしとあの子の父親が再婚して、わたしは懸命にあの子の母親になろうと努力したんだけれど、あの子はわたしの事を未だに母親とは認めていないんだと思うの。」
「済まねぇな、立ち入った事を聞いちまって。」
「いいのよ。それよりも後で千尋と土方さんに、見せたい物があるの。」
「見せたい物?」
「今週末のクリスマスパーティーで貴方達が着る物を、急ぎで作ってみたのよ。」
夕食後、歳三と千尋が千佳の部屋に入ると、アクアグリーンのドレスと、タキシードがクローゼットのハンガーに掛けられた状態でベッドの上に広げられていた。
にほんブログ村