素材は、
装丁カフェ様からお借りしました。
「火宵の月」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
賑やかな音楽と共に、美しい衣を纏った女達が舞台上で舞い踊る姿を、貴族達は鼻の下を伸ばしながら見ていた。
「今宵も、皇太子様はいらっしゃらないのか。」
「人嫌いで有名だからな、あの方は。」
「まぁ、“あんな事”があったから、無理もない。」
「しかし、戴冠式を皇太子様ご自身が欠席なさるというのは・・」
「戴冠式が、何だって?」
「神官様・・」
貴族達がそんな話をしていると、そこへ一人の少女がやって来た。
「艶夜、こちらへ来なさい。」
「はい・・」
少女は貴族達を睨みつけると、祖母の元へと駆けていった。
「あのような者達は、相手にするではない。」
「でも・・」
艶夜の祖母・エミヤは、顔を持っていた扇子で扇いだ。
「心配せずとも、お前の兄は必ず戴冠式に出席する。」
「はい・・」
「さぁ、艶夜様、ダンスのレッスンの時間ですよ。」
「え~」
侍女と共に艶夜が自室に戻る途中、何処からか美しい和琴の音色が聞こえて来た。
(全く、アリマサはいつまで引き籠もっているんだか・・)
「艶夜様?」
「わかった、今行くよ。」
妖狐族の王宮には、皇太后であるエミヤ、そしてその娘であるスウリヤ、孫の艶夜と有匡が住んでいた。
エミヤは人間である二人の父・有仁とスウリヤの結婚を許さなかったが、有仁の死後、己の元に身を寄せるようになった彼女を許した。
艶夜の兄でありこの国の皇太子である有匡は、来週成人を迎える。
「それにしても、有匡が一体何を考えているのかがわからぬ。もうすぐ成人するというのに、公務を疎かにし、自室に引き籠もってばかり・・」
「あの子は責任感が強いから、わたし達が放っておいても大丈夫だろう。」
エミヤはそう言うと、刺繍を続けた。
「せめてあの子が身を固めてくれれば、落ち着くと思うんだが・・」
「それは、あの子に任せておけばいい。」
「そうしたいのはやまやまだが・・」
母と祖母が自分の身を案じている事など知らずに、有匡は父の形見である和琴を弾いていた。
―有匡、これは、駆け落ちした時にお父さんから貰った護り刀なのよ。
幼い頃、母はそう言うと一度だけ、自分に護り刀を見せてくれた。
―これは、この世にたったひとつしかない、大切なものなのよ。だから、いつかあなたに大切な人が出来たら・・
「皇太子様、いらっしゃいますか?」
「あぁ、どうした?」
「戴冠式の打ち合わせをしたいと、侍従官長が・・」
「わかった、すぐ行くと伝えろ。」
「は・・」
(とうとう、戴冠式の時が来たか・・)
有匡は溜息を吐きながら、有仁が亡くなった日の事を思い出していた。
有仁は、長年肺を患い、王位を退いた後は寝たきりの生活を送っていた。
「有匡、わたしが居なくなった後は、この国を頼む。」
「父上・・」
「頼んだぞ・・」
有仁は喀血した後、有匡の手を握って静かに息を引き取った。
父を喪った悲しみから、有匡は未だに立ち直れなかった。
だが周囲は有匡が有仁の跡を継ぎ、立派な皇帝になる事を望んでいる。
(わたしは、父上の為にこの国を・・)
「皇太子様、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。少し疲れただけだ。」
「そうですか。」
自室に戻った有匡は、寝室に入り、そのまま朝から出て来なかった。
「皇太子様、おはようございます。」
「おはようございます。」
戴冠式当日の朝、有匡は侍従達に起こされ、少し不機嫌な表情を浮かべながら着替えを済ませた。
王宮から遠く離れた村のパン屋で働いている7歳の火月は、親方と幼馴染の琥龍と共に王宮へ向かう事になった。
「わ~、広い!」
「二人共、わたしから離れるなよ。」
「は~い。」
そう言った火月だったが、初めて訪れた王宮で彼女は迷子になってしまった。
(どうしよう・・)
同じ頃、有匡は戴冠式が行われる大聖堂へと向かおうとしていた。
その時、彼は幼い少女の泣き声を聞いたような気がした。
「皇太子様、どうかなさいましたか?」
「子供の泣き声が聞こえなかったか?」
「いいえ、空耳でしょう。さぁ、急ぎませんと・・」
有匡は、少女の泣き声が聞こえる方へと向かうと、その泣き声の主は、薔薇のアーチの前に座り込んでいた。
「どうした?」
「道に、迷ってしまったんです。パーティー会場に行こうとしたのに・・」
「そうか。では、わたしが連れて行こう。」
「いいの?」
「あぁ、構わんさ。」
「皇太子様!?」
「すぐに戻る。」
慌てふためく侍従達を廊下に置き去りにして、有匡は少女をパーティー会場へと連れて行った。
「ここでいいのか?」
「うん!助けてくれて、ありがとう!」
火月はそう言うと、有匡に向かって手を振った。
「皇太子様・・」
「すぐに戻ると言っただろう?」
大聖堂で、戴冠式は滞りなく行われた。
『神よ、王を救いたまえ!』
主任司祭によって真珠と紅玉、ダイヤモンドで彩られた王冠が有匡の頭上に輝いたその瞬間、新しい皇帝がこの国に誕生した。
「おい、出て来たぞ、新しい皇帝陛下だ!」
「皇帝陛下、万歳!」
王宮前の広場には、新しく皇帝になった有匡の顔を一目見ようと、多くの国民が集まっていた。
やがて、王宮のバルコニーに、有匡達が現れた。
「あ、あの人・・」
「どうした、火月?」
「バルコニーで王冠を被っている人、僕を助けてくれた人だよ!」
「な、なんだってぇ~!」
有匡と火月が運命的な出逢いをしてから、10年もの歳月が過ぎた。
火月は、いつもと同じようにパン屋で忙しく働いていた。
そんなある日の事、一台の馬車がパン屋の前に停まり。中から軍服姿の男が出て来た。
「いらっしゃいませ・・」
「火月様、お迎えにあがりました。」
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