クリスティーネがゆっくりと目を開けると、そこには自分の手を心配そうに握っているアウグストの姿があった。
「お嬢様、ご無事で・・」
「アウグスト、一体何があったの?」
「お嬢様、覚えておられないのですか?数日前に公園で、何者かに狙撃されたのですよ。」
「狙撃・・」
アウグストの言葉を聞いたクリスティーネの脳裏に、数日前公園で落馬した時のことが浮かんだ。
「わたしを狙撃した犯人は、捕まったの?」
「いいえ。わたしはお嬢様をお屋敷に運ぶことに必死でしたから・・」
「そう・・」
クリスティーネがゆっくりとベッドから起き上がると、後頭部に鈍痛が走った。
「無理をなさってはいけません、お嬢様。三日も寝ていらしたのですから。」
「三日も?」
「ええ。お医者様がおっしゃるには、落馬した衝撃で強く頭を打ったものの、脳に異常はないそうです。」
「フィリスは?」
「フィリス様は、お嬢様の身を案じながらも、仕事に行かれました。」
「アウグスト、フィリスにわたしは無事だと伝えて頂戴。」
「かしこまりました。お嬢様、暫くお休みになってください。」
「わかったわ。」
アウグストが自分の寝室から出て行った後、クリスティーネはそっと目を閉じて再び眠りに落ちた。
「あの小娘の暗殺に失敗した?」
「はい、アンジェリーナ様。彼女は一人ではなく、あの有能な執事と一緒でしたので・・」
「この役立たずが!」
部下からクリスティーネ暗殺の失敗を告げられ、激昂したアンジェリーナはそう叫ぶと部下の顔を拳で殴った。
「アンジェリーナ、落ち着けよ。」
「これが落ち着いていられるか!あと少しであの忌々しい小娘を殺せたのに・・」
アンジェリーナは美しい顔を怒りで醜く歪ませると、苛立ちをテーブルにぶつけるかのようにそれを平手で激しく叩いた。
「カバリュス、お前もあの公園に居たのだろう?何故その時小娘を始末しなかった?」
「隣にあの執事が居たから、妙な真似は出来なかったんだ。それに俺の顔は二人に知られているし・・」
カバリュスはそう言うと、アンジェリーナをそっと背後から抱き締めた。
「なぁ、機嫌を直してくれよ、アンジェリーナ。お前の為にエメラルドの首飾りをプレゼントするからさ。」
「宝石ならもう腐るほど持っている。」
「それは羨ましいねぇ。でも、王妃様の首飾りと聞いたら、お前も欲しくなるだろう?」
「へぇ・・」
アンジェリーナの金色の双眸がきらりと光った。
「王妃様の首飾りを、どうやって盗むつもりだい?」
「俺の知り合いに、王妃様付きの女官が居てね。そいつに頼めば、何とかなるだろうさ。」
「面白いね、わたしもその作戦に乗らせて貰うよ。」
アンジェリーナはそう言って自分の身体を縛めているカバリュスの両腕を解くと、彼の方に振りむいてそのまま彼の唇を塞いだ。
「王妃様の首飾りを必ずわたしの元に持って来るんだ、いいね?」
「ああ、わかったよ。」
アンジェリーナの機嫌が良くなったのを見て、カバリュスは内心安堵の溜息を吐いた。
(全く、気紛れな女王様だぜ・・)
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